医師会vs財務省、診療報酬でバトルが本格化 医療費の抑制と財源確保は待ったなし

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横倉会長は「本体がマイナス改定なら必要な医療提供ができなくなる。多くの医療機関の利益率は2%あるかないかで、赤字病院が増え、過疎地域を含めて倒産する医療機関がそうとう出てくる」と小泉政権時代のような"医療崩壊"を懸念する。

今年6月19日には岐阜市の大手医療機関が87億円の負債を抱えて民事再生法の適用を申請した。帝国データバンクによると、2000年以降の病院の倒産(負債総額50億円以上)は9件しかなく、今回は4番目に大きいという。「倒産件数は本業以外の粉飾など放漫経営が原因となって2007年にピークをつけた。リーマンショック後の金融円滑化法が医療法人にも適用され、倒産件数は落ち着いていたが、去年から30億円以上の大型倒産が目立っている」(同社情報部)。

医師会側は「2014年の診療報酬改定が消費増税分の補填を除けば実質1.26%のマイナス改定だったことや、多額の設備投資をした医療機関に対し、消費増税分の診療報酬による補填が十分でなく、経営悪化につながった」と分析している。

2015年秋に公表された直近の医療経済実態調査によると、一般病院(医療法人)の利益率は2.4~2.6%で推移しているが、一般診療所の損益差額(利益率)は15~16%前後にのぼっている(2013~14年度)。

財務省は「診療科や地域の偏在により、必要な地域・分野で医師の確保が難しく、医療提供が困難な事例があるといわれるが、医療全体の財源である(診療報酬)本体の改定率とは別の話。そもそも医療崩壊とは何を指すのか、整理が必要ではないか」(担当者)と指摘している。

議論を深めるためのデータが不足している

医師の人件費は高いのか。また、医療機関の経営は安定しているのか。こうしてみると、議論の前提に必要なアクセスしやすいデータが少なく、医療財政をめぐる議論が深まらない一因になっている。

膨らむ一方の医療費の財源を今後どうやって賄っていくのか。財源は消費税なのか、それとも現役世代が中心になって負担している保険料をさらに引き上げるのか。財源がないなら医療費を抑制する施策が必要だが、それについてのコンセンサスも見取図も今のところ存在しない。

たとえば、医師会の横倉会長は「(財源確保のため)国は必要な税をとるべき。2019年10月には予定通り消費税率を引き上げるべきで、消費税のみならず、所得税の課税限度額も下げるべきだ」と話す。しかし、具体的な数字を示しての財源確保の議論を行なっているわけではない。

来年は診療報酬と同時に介護報酬も改定される、いわゆる同時改定の年で、その増減は、歳出の相当割合を占める社会保障費のゆくえを占う試金石となる。診療報酬本体は2008年以降、5回連続でプラス改定が続いてきたが、2018年度改定ははたしてどうなるのか。「本音は本体プラス改定」(横倉会長)とする医師会と財務省のつば迫り合いは始まったばかりだ。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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