年金の支給要件緩和に喜ぶ人、心配が募る人 「財源なき前倒し」に勝算はあるのか

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➀厚生年金加入の範囲拡大 これまで国民年金しかなかったパートタイマーなどが厚生年金にも加入しやすくする。同時に厚生年金に加入できる事業所(会社)の範囲を拡大することで、厚生年金に1人でも多くの人が加入できるようにしようというものだ。年金加入者が増えることで現役世代が増え、保険料増収につながることになる。

➁マクロ経済スライドの見通し 簡単にいうと、物価や賃金が上昇すれば、本来ならば年金給付額も上昇するはずだが、マクロ経済スライドという「ストッパー」を使って給付額を上げることなく、将来の年金不足に備えようというもの。

③国民年金保険料の納付期間延長、受給開始年齢の選択制導入……国民年金の納付期間を60歳から65歳に延長すること、そして年金の受給開始年齢を65歳から70歳に延長する。おそらく政府はこれを最もやりたいのだが、いきなりやると選挙で負けるために、オブラートに包み、他のオプションと併記することでショックを和らげていると言っていいだろう。

受給資格期間短縮は一部の人にはメリットがあった

いずれにしても、年金制度はすべての国民にかかわってくる問題であり、保険料納付は義務付けられている。そういう意味では、今回の受給資格期間短縮は、一部の人には目に見える形でメリットがあったと言っていいだろう。

ただ安倍政権になってから、アベノミクスの一環という形で行われてきた「GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)」の株式投資のウエート拡大には大きな疑問がある。将来の年金制度の存亡を握っているともいえるGPIFが、リスクを取りにいかざるをえなくなったのは国債での運用がままならなくなったことも大きいのだが、安倍政権の株価上昇の原動力として白羽の矢が立ってしまったのも事実だ。

自民党政権、というよりも安倍政権に忖度してわれわれの貴重な年金資産を、株価を上昇させる=安倍政権支持率アップのための道具として使ったのであれば、日銀同様に一刻も早く「出口戦略」を立てて、株価が元の適正な水準に戻った時に、大きな損失を出さないような対策をとる必要がある。

前述したように、資格短縮は財源の見通しがないまま、前倒しで実現された。年金制度の維持という以前に、安倍政権が約束した「社会保障と税の一体改革」の実現はどこへ行ったのか。初心に帰る、という言葉だけの反省はもう通用しないはずだ。

岩崎 博充 経済ジャーナリスト

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いわさき ひろみつ / Hiromitsu Iwasaki

雑誌編集者等を経て1982年に独立し、経済、金融などのジャンルに特化したフリーのライター集団「ライトルーム」を設立。雑誌、新聞、単行本などで執筆活動を行うほか、テレビ、ラジオ等のコメンテーターとしても活動している。『老後破綻 改訂版』(廣済堂出版)、『日本人が知らなかったリスクマネー入門』(翔泳社)、『「老後」プアから身をかわす 50歳でも間に合う女の老後サバイバルマネープラン! 』(主婦の友インフォス情報社)など著書多数。
 

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