トヨタの10代目「カムリ」乗ってわかった実力 基本から大刷新、不遇のセダン市場へ挑む

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今回、“フルTNGA”の採用に伴って、足回りも刷新されている。前/マクファーソンストラット、後/ダブルウィッシュボーンは、共に新開発だ。その効果が最も体感できるのは、クルマがロールしたときだ。サスの摩擦を減らし、対地キャンパーの適正化したことによって、ぐっと安定感が増している。もちろん、TNGAの採用による低重心化も効いている。

エンジンルーム(写真:筆者撮影)

ハイブリッド機構の熟成もなされているが、低燃費化の立役者は、2.5リッター直4エンジンの燃焼技術の向上だ。具体的には、エンジンシリンダーの直径である「ボア」に対して、エンジンシリンダーが動く長さ「ストローク」を長くするロングストローク化を施した。

さらに、エンジンへの吸気と排気を制御するバルブの角度を41度まで拡大して、エンジンの燃焼室への空気の入り口である「吸気ポート」の形を変えて、吸気が真っすぐに燃焼室に向かわせることによって、燃料が真っすぐに燃焼室に流れるようにした。これにより、エンジンの中で「タンブル流」という渦が起きて、より広く燃料を噴くことができる多孔式直噴インジェクターを採用することとあわせて、燃料と空気がよりよく混ざって、ムラなく、速く、燃焼ができるようになり、その結果、40%もの熱効率を実現できる高効率エンジンを生み出したのだ。

あえてセダンで勝負を挑む「潔さ」

残念ながら、日本への導入予定はないが、アメリカで販売される「カムリ」の約80%を占める直4エンジンを積んだモデルには、新開発の8速ATが組み合わされる。ロックアップ領域を広げると、オートマの滑りが減って、低燃費化につながるのだが、ロックアップ領域を広げようとすると、どうしても振動やショック、こもり音が出やすくなる。新型「カムリ」では、内部の構造を工夫し、ショックを受け止めるダンパーとしてバネを組み込むことにより、ロックアップ領域を30%も広げて、ガソリンエンジンでも低燃費化を実現している。

TNGAのアーキテクチャーをすべて採用した”フルTNGA”となり、デザインも近代的に刷新された新型「カムリ」だが、果たして、クルマに乗る楽しさとは何かが問われる時代に合ったクルマといえるだろうか。

ライバルに視線を移せば、従来のシボレー「マリブ」のような中型セダンだけではなく、中型SUVまで含めてライバル視せざるをえない。そんななか、新型「カムリ」では、あえてセダンというオーソドックスなボディ形状で勝負を挑んでいる。

近年、流行となっているクロスオーバーSUVと比べれば、使い勝手のよさや居住性の高さは多少不利かもしれないが、しゃきっと近代的になった乗り味は、クルマを自分のコントロール下におくという非常にプリミティブな運転の楽しみを満たしてくれる。

価格は329万4000円~419万5800円。国内販売目標は月間2400台と9代目の500台から大きく引き上げた。従来のカムリユーザーに加えて、次世代モデルの開発が止まっているという「マークX」系ユーザー、また中高年層にはセダンというボディ形状には一定数の支持者がいる。その前提に立てば、内外装やインターフェースのデザインも含めて、セダンらしさを追求して、セダンだからこそのデザインと走りを実現したという点において、新型「カムリ」の進化の方向性を評価したい。

川端 由美 モータージャーナリスト
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