「東京メトロ」上場に向け必要な施策は何か 都営との乗り継ぎ改善はどう進める?

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以上、東京メトロの上場に向けて、顧客満足度と企業価値の向上を図る方策について述べた。それでは、上場に向けた課題はどのようなものだろうか。

東京メトロこと東京地下鉄株式会社は、前身の帝都高速度交通営団を承継する法人として、東京地下鉄株式会社法に基づき設立された特殊法人である。現在の株主は、財務大臣(政府)53.42%、東京都46.58%の構成となっている。

同法附則第2条では「国及び(中略)株式の譲渡を受けた地方公共団体(筆者注:東京都のこと)は、特殊法人等改革基本法(中略)に基づく特殊法人等整理合理化計画の趣旨を踏まえ、(中略)できる限り速やかにこの法律の廃止、その保有する株式の売却その他の必要な措置を講ずるものとする」と規定し、東京メトロの完全民営化を求めている。

政府保有の東京メトロ株の売却収入は、復興財源に充当することが決まっており、できる限り早期の売却を進めることが政府の方針である。2016年10月25日、九州旅客鉄道(JR九州)が上場を果たし、東京メトロは次の完全民営化候補として注目されている。顧客第一の経営を展開し、企業価値を向上することは、顧客に恩恵をもたらすだけでなく、政府が手にする株式売却収入を増やすことにつながるため、国民の利益にもかなう。

運賃通算制度など積極策に期待

東京メトロと都営地下鉄は運賃制度が異なる(撮影:尾形文繁)

政府が早期の完全民営化を模索する一方、東京都は東京メトロと都営地下鉄との経営統合を主張してきた。仮に東京メトロと都営地下鉄(東京都交通局高速電車事業)が統合した場合、自己資本比率(純資産合計(東京都交通局では資本合計)÷資産合計で計算)は約27.7%となり、東京メトロの40.4%と比べて、12ポイント以上も低下してしまう。ただし、自己資本当期純利益率は11.4%(当期純利益(東京都交通局では当年度純利益)÷純資産合計(同じく資本合計)で計算)で、統合しない場合とほとんど変わらない。

経営統合で東京メトロの企業価値が低下するかどうかはすぐには判断できないが、運賃通算化が実現すれば、経営統合をしなくても、鉄道事業者の違いを意識せずに両事業者の乗り継ぎ利用が可能となる。東京メトロの山村社長には、運賃通算制度をはじめとする積極的な顧客満足度向上策を望みたい。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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