田園都市線に「座れる通勤ライナー」は必要だ 「時差Biz」臨時特急に見た着席列車の可能性

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「時差Bizライナー」は、朝ラッシュ混雑緩和に関する取り組みの一環で無料の特急列車として運行されたが、本記事では、田園都市線における有料着席保証列車の運行を提案する。

仮に「時差Bizライナー」を、東武東上本線の「TJライナー」のようなロングシート・クロスシート転換車両を導入して有料着席保証列車とした場合、提供座席数は450席前後になると予想される。輸送力は大幅に減るものの、東急にとっては座席指定料金収入を確保することができ、旅客の着席ニーズにも応えることが可能となる。

渋谷駅到着後、半蔵門線内は車内に相当のゆとりがあり、仮に渋谷駅から押上駅までクロスシートのまま一般列車として開放しても支障はなさそうである。筆者の個人的な提案ではあるが、中央林間駅→渋谷駅は座席指定列車として運行し、渋谷駅→押上駅間はクロスシートの状態で料金不要の一般列車として運行するのはどうだろうか。そして、押上駅到着後はロングシートに戻してもよいし、クロスシートのまま折り返し運用に用いてもよさそうである。

沿線価値向上につながる着席列車

有料着席保証列車はゆったりとした空間の中で着席したまま目的地まで移動できるのが大きな魅力である。「時差Bizライナー」の乗車率は約100%で圧迫感はなかったものの、途中駅からの着席は不可能であった。ゆったりとした移動空間および着席を望むニーズに応えるためには、東急田園都市線に有料着席保証列車を運行することが一つの対応策となる。

同線沿線在住で観光論・交通論が専門の崎本武志・江戸川大学准教授も「東急田園都市線のピーク時の着席ニーズは相当高いはず。また、痴漢などの車内犯罪防止にも有効だ。さらに、朝の時間帯において中央林間・長津田発東武直通の有料特急として実現できれば、渋谷や半蔵門線の駅までは通勤特急として、東武線内は日光・鬼怒川などへの観光列車としての役割を期待できる。田園都市線の魅力向上のためにも、一刻も早く実現する必要がある。私も利用したいと思う」と、早期の着席保証列車実現の必要性を強調する。着席保証列車の運行が、田園都市線の沿線価値および並行する競合路線に対する競争力向上を通じた東急の企業価値につながると考えられる。

2018年3月には小田急小田原線東北沢駅―世田谷代田駅間で複々線の使用が開始されることに伴い、主に同線の朝の時間帯における列車本数の増発と所要時間の短縮が予定されている。特急ロマンスカーの増発も予定されており、東急田園都市線から小田急線への利用のシフトが起こる可能性がある。

競合路線対策としてはもちろんのこと、今後予想される少子高齢化に伴う沿線人口減少を見据えた料金収入確保と沿線の魅力向上を通じた定住人口確保につなげるためにも、今回の「時差Bizライナー」の運行が、将来的な田園都市線での有料着席保証列車運行のきっかけとなることを期待したい。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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