低迷招いた三越、「空白」の10年 経営統合にかけた起死回生策 

拡大
縮小

伊勢丹流の移植に不可欠な意識改革

 リストラに追われて、肝心の本業強化が後手に回る悪循環。競合他社は将来の市場縮小も見据え、営業力の強化に努めた。伊勢丹では独自の商品情報システム構築を推進。若手バイヤー育成といった人材強化も怠らず、着実に組織力を高めてきた。その結果が今の「勝ち組」だ。武藤信一社長は「私どもはリストラをしたことがない。リストラありきで考える企業ではない」と胸を張る。
 石塚社長は「伊勢丹のシステムや業務フローを導入することで、三越では調達できなかった商品も提供できるようになる」と、勝ち組が築き上げたノウハウに全幅の信頼を寄せる。確かに、現在の伊勢丹を支える情報システムは最強だ。多くの百貨店は、カテゴリー単位で商品の販売情報をつかむ程度。同社では、商品の色からサイズに至るまで、単品ごとに売れ行きを把握。ハウスカードの顧客情報と組み合わせて、「いつ誰が何を買ったか」という緻密なデータを蓄積している。

 しかし、導入してすぐに成果が出るものではない。伊勢丹のシステムを導入して丸3年が経つ井筒屋は「単品管理がなかなか定着せず、十分な効果はまだ出ていない」と活用の難しさを語る。「データから想像力を働かせ、仮説を立てたうえで動ける。それが伊勢丹」(別の百貨店幹部)。「受け身」なままでは、立派な情報システムも、宝の持ち腐れとなってしまう。

 三越は三井グループの中核として、節目には必ず三井銀行(現・三井住友銀行)から“世話人”が送り込まれ、危機を脱してきた。戦後復興の中で商売の基盤を築いた岩瀬英一郎氏や、岡田社長解任に際して重要な役回りを務めた小山五郎氏も、源流企業の立て直しに尽力した。だが、もはやグループの論理を優先する時代ではない。三井住友銀行の奧正之頭取も「厳しい環境の中、企業が生き残るためなら統合もやむをえない」と突き放す。単独改革につまずいた三越にとって、のれんを残す唯一の選択が今回の統合だった。

 伊勢丹という頼みの綱を見つけたが、失った10年を取り戻すために越えるべきハードルは高い。急激な変化には痛みも伴う。その覚悟がどれだけあるのか。統合の成否は、三越の意識改革にかかっている。

(書き手:堀越千代 撮影:尾形文繁)

堀越 千代 東洋経済 記者

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ほりこし ちよ / Chiyo Horikoshi

1976年生まれ。2006年に東洋経済新報社入社。08年より『週刊東洋経済』編集部で、流通、医療・介護、自己啓発など幅広い分野の特集を担当してきた。14年10月より新事業開発の専任となり、16年7月に新媒体『ハレタル』をオープン。Webサイト、イベント、コンセプトマガジンを通して、子育て中の女性に向けた情報を発信している

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