トランプ税制改革方針が超軽量級だった事情 現政権の目玉政策なはずなのに・・・

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そう考えると、3つのサプライズにも合点がいく。発表を急いだのは、夏季休会の開始に間に合わせたかったからだ。国境調整税の断念を公表したのは、むやみに論争を引きずれば、税制改革の宣伝にとって障害になるからだろう。

貧弱な内容にも理屈はある。最大公約数であるあいまいな表現にとどめれば、どのような立場の議員でも、有権者に説明しやすくなる。また、詳細な部分を示さなければ、今後の具体案作りでの柔軟性も確保できる。

とにかく機運を盛り上げたい

共同方針の表現は、慎重に選ばれたようだ。たとえば現在35%の法人税率については、「最大限の引き下げを目指す」とされている。トランプ政権が目指す15%までの引き下げを支持する立場だろうと、財政赤字拡大への懸念から20%台への引き下げにとどめるべきとする立場だろうと、どちらも賛同できる内容である。

これも財政赤字拡大との関係で議論となっている企業の投資費用に対する減税のあり方については、「過去に例がないような償却制度」との言葉が選ばれた。トランプ政権が主張する即時償却にとどまらず、幅広い選択肢が含まれうる表現だ。さらに、減税を恒久化するかどうかについても、恒久化を「重視する」との表現に落ち着いており、場合によっては時限減税を容認する余地が残された。

共同方針を手にしたトランプ政権関係者と共和党議員は、夏季休会を税制改革への機運を盛り上げるために費やす計画だ。こうした動きに合わせて、ビジネス・ラウンドテーブルなどの経済団体も、税制改革を後押しするテレビ広告などを展開する方針を明らかにしている。

予算審議や債務上限の引き上げなど、休会明けの課題を考えれば、早期の税制改革実現が難しい状況に変わりはない。それでも、難破寸前のトランプ政権と議会共和党とすれば、何とか改革実現に向けた雰囲気を醸成し、局面の転換を図りたいところだろう。

もちろん、共同方針だけでは税制改革は実現できない。政権と議会共和党有力者の調整が終わったことで、具体的な法案作りは上下両院の税制担当委員会に舞台が移された。夏休み以降の本格審議開始に備え、各委員会のスタッフには重い夏休みの宿題が課された格好である。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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