システムの信頼性を担保する新たな常識

AI時代のテスティング新基準とは

AIをはじめとするテクノロジーの急速な進歩に伴い、エンタープライズシステムは大きな変革期を迎えている。この変化が、システムの信頼性、品質を担保してきたテスティングのあり方に、どのような影響を及ぼすのか、について検討するシンポジウム「Japan Testing Symposium 2017 テスティングの新基準 テクノロジー新時代におけるテスティングのチャレンジ」が7月19日に東京・千代田区で開催された。

共催:アクセンチュア 東洋経済新報社

問題提起
エンタープライズテスティングの未来

田畑紀和氏/アクセンチュア テクノロジー コンサルティング本部 テクノロジーアーキテクチャ グループ統括 マネジング・ディレクター

アクセンチュアの田畑紀和氏は、同社が毎年、今後の3~5年先にビジネスへの大きな影響が予想されるIT分野のトレンドを発表している「Accenture Technology Vision」に挙げられた2017年の5つのトレンドを踏まえ、テスティングに及ぼす影響と課題について提起した。今年は、昨年に引き続きDigital時代における”ひと”にフォーカスし「テクノロジーを”ひと”のために:インテリジェント・エンタープライズの時代」というキーフレーズにまとめられている。”ひと”に寄り添うようにテクノロジーをコントロールしデザインする必要性と、”ひと”(顧客、従業員)のパートナーとして、テクノロジーを駆使して彼らの成功を支援することの重要性について指摘している。

まず、1つ目のトレンド「AIは新しいユーザーインターフェース」においては、AIはあらゆる領域で高度な役割を担うユーザーインターフェースになることを予測。機械学習のAIが業務システムに組み込まれた場合に、開発者も処理結果が正しいのかわからないことが起き得るため、品質保証に問題が生じると指摘。

次に、第二のトレンドである「無限の可能性を持つエコシステム」においては、デジタルプラットフォーマーや戦略的パートナーと連携することでより高い価値を提供するバリューチェーンが形成できることを説明。たとえばホテル会社が、外部のメッセンジャープラットフォーム上で予約できるシステムをつくる場合、外部パートナーとAPI連携して顧客価値を生むエコシステムが広がる結果、自社内のシステムに対するテストだけでなく、提携先も含めたバリューチェーン全体の品質を保証するためのテストフェーズが新たに必要になるとした。

第三の「人材のマーケットプレイス」においてはクラウドソースも含めた多様な人材が集まり活用されることを述べ、テスティングにおいても、海外ではユーザーインターフェースの多言語対応テストなどでクラウドソーシングが活用され始めていると指摘。フリーランスなどの多様な人材を活用するには、文書化されたルールや標準による統制では限界があるとして、それに代わる新たな仕組みを提供するテクノロジーの必要性に触れた。

第四の「”ひと”のためのデザイン」では、顧客データを活用したサービスの個別化が進むと予想。膨大な行動データに対するパフォーマンステストやセキュリティテストを課題に挙げた。併せて、Design Thinkingに基づく新しい開発アプローチの下ではテストや品質に対する考え方も変化するだろうと述べた。

最後に、第五のトレンドである「未踏の領域へ」においては、新テクノロジーで創造する産業領域は、業界標準、政策制度の整備が追いつかず、開拓者がそれらを創出することになるとして、テスティングにおいても新常識をわれわれ自身が創り出すチャレンジが求められると述べた。

テスティングの将来像
AI時代に向けたソフトウエアテスティングの発展

土屋達弘氏/大阪大学大学院情報科学研究科 情報システム工学専攻 教授

大阪大学の土屋達弘氏は、テストの回数を減らすためのペアワイズ法を紹介。これは、4つの項目にそれぞれ3つの機能があるとすると、全組合わせを網羅するには81回のテストが必要だが、任意の2項目の機能のペアをすべてテストすることにすれば9回で済む、というもので、そのテストパターンを自動生成するためのツールも紹介した。

AIのテスティングへの活用では、ソフトウエア文書から取り出したデータ、ソフトウエアメトリクスを使い、規模・工数を予測するソフトウエア工学のアプローチや、どのコンポーネントにバグがありそうかを推定するフォールトプローンネスを、AIのデータ分析で高精度化することを期待した。また、AIの自然言語処理機能によって、要求記述とテスト記述の単語の出現頻度を抽出、その特徴量を比較し、関連性から、どの領域で、どの程度のテストをしたか、を推測する研究を説明した。データによる学習が重要なAIを取り入れたソフトウエアのテストについては、従来のコードカバレッジに代わる基準が必要と指摘。正しいかどうかはわからない中でのテスティングの考え方として、検索エンジンのテストを例に、キーワード一つの検索より、もう一つキーワードを加えて絞り込んだ方がヒット件数は少なくなるはずという、ある程度自明の関連性を使ったメタモルフィックテスティングを取り上げた。最後に、参加者に向かって「皆さんと課題を共有させていただきたい」と呼びかけた。

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