ライバルより顧客を意識、ナンバーワンを目指す−−三宅占二 キリンビール社長

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 シェアを最終目標にしてしまうと、企業活動の軸がぶれてしまうのです。昨年は上期でリニューアルも含めて二十数種類もの新商品が出たにもかかわらず、総市場はマイナス。競合を意識したメーカー都合の商品開発に、お客さんがノーと言ったと思いますね。結果、昨年の下半期になると、「淡麗(生)」や「のどごし(生)」など定番商品に回帰しました。

--若者のビール離れを止める需要開拓も求められますね。

メーカーが「若者のビール離れ」を唱えていては責任回避になる。商品開発をしっかりやらなければいけない。昨年は、ビール類らしくない「スパークリングホップ」を出した。ホップの苦味を抑えて、フルーティな香りを楽しんでもらえ、オンザロックで飲めるお酒で、若い人には好感を得ている。従来なかったシーンで飲んでくれるとか、ビールを飲まなかった人たちが手を出してくれていますよ。

--9月に発売する新商品(キリン スムース)も、若者需要を取り込もうとする狙いですよね。

今の若い人たちは、必ずしもお酒に酔いを求めていない。どうせ飲むなら軽いほうがいい、「ながら飲み」ができるものがいいようです。だから、今度の新商品もちょっとアルコールを低くした。軽く酔えるというのが商品コンセプトです。他社の新ジャンルである「クリアアサヒ」とか「金麦」とは一線を画すものです。

--06年にメルシャンを買収しました。統合効果はワインの需要拡大にプラスに働いていますか。

メルシャンは国産ワインでナンバーワンだし、輸入部門も含め、ワインでは総合ナンバーワンを狙える会社です。統合効果がいちばん出ているのはデイリーワイン。数字がものすごくいい。上期でメルシャンは業界平均の伸びを2ポイント程度上回っている。4月からキリンの取引制度に合わせた売り方をしています。これまでは商品の継承と絞り込み、売り方改革でしたが、これからはキリンとメルシャンが一緒に知恵を出し合って、こういう新商品が生まれますという段階に来ていると思います。

--持ち株会社キリンホールディングスになって多角化路線を鮮明にしていますが、中核であるべきキリンビールの存在意義に変化はあるのでしょうか。

国内酒類事業がヒト・モノ・カネの源泉になります。国内酒類事業の再成長は量的だけでなく、質的な再成長も必要。いつまでも今の営業利益率ではダメだし、少なくとも10%はとらなきゃいけない。成長シナリオを支える役目です。海外を含めて3兆円グループになれば、当然構成比は下がりますよ。グループ内で伸ばさなきゃいけないのは、ビール市場よりもマーケットが大きい清涼飲料(キリンビバレッジ)です。

今まで飲料は上場別会社でしたが、新体制で100%子会社、ビールと兄弟会社になりました。ですから、人事交流なども含めて、研究開発体制だとか、マーケティングの商品開発の連携も深めていく、というのが今後の課題だと思います。

人材面でもだいぶ前から幅広く採用しています。加えて、社内公募もやっている。メルシャン、キリンマーチャンダイジング、キリンビバレッジなどとの人事交流も活発です。若いうちに他流試合を経験しておくと、将来経営職をやるときに役に立つし、会社を外から見る貴重な体験もできます。そうすると、グループ他社の人にも意見を言える「いい意味での越境」が可能になって、グループ内が活性化してきます。

--今後の酒類の海外展開は。

海外のビッグプレーヤーは5兆円も出して、ビール会社を買うところもあります。アンハイザー・ブッシュと統合する前のインベブ(ベルギー)だけで、販売量はうちの10倍ですからね。国内のマーケットは六百何十万キロリットルだけど、向こうは1社で二千数百万キロリットル。営業利益率も彼らは二十数%で、こっちはせいぜい6~7%がやっとの状況。海外メーカーとの差は大きく、そういう意味でも収益構造を強くしていくことが、海外展開を長いレンジでやっていくには必要でしょうね。国内でつまらん競争をしている場合じゃないですよ。

(鈴木雅幸、佐藤未来 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)

みやけ・せんじ
1948年生まれ。東京都出身。70年に慶應義塾大学経済学部卒後、キリンビールに入社。営業畑を歩む。首都圏、東海地区など各地の営業本部長を歴任。04年に常務執行役。06年国内酒類カンパニー社長。07年現職。

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