東大合格率No.1の筑駒は水田で生徒を育てる 都心の超進学校が年間を通して稲作する理由

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6月初旬の土曜日、8時30分に高1全員が正門前広場に集合した。全員地下足袋を履いている。水田稲作学習の目玉イベントの1つ「田植え」を行うのである。

「水田委員長」は筑駒生の代表

「水田委員長」という役職の生徒が、拡声器で段取りを確認する。「ふざけないでまじめにやるように」とくぎを刺す。水田委員長は、音楽祭実行委員長、体育祭実行委員長、文化祭実行委員長と並ぶ、筑駒を代表する立派な役職の1つである。

学年担当の教員からは3つの注意事項があった。

「1つ目。学校と水田の間の移動経路を泥で汚さないように」

「2つ目。苗が主役です。キミたちが主役ではありません。3年間の成長を見せてください。人間は地球上で威張っていますが、最後は自然に負けます」

「3つ目。地下足袋は今日中に家に持って帰ってください。学校の中で放置すると、いろいろなものが生えたりします。もう一度言います。人間は地球上で威張っていますが、最後は自然に負けます」

生徒たちが水田に到着するまでの水田は、鏡のように青空を映し出し、水の中では、メダカやザリガニ、アメンボなどがのんびりと過ごしていた。

生徒たちが一列に水田に脚を踏み入れる。最初はにゅるっとして気持ちが悪いがすぐに慣れる。苗箱係から苗を1束ずつ受け取り、ロープ係が張るロープに沿って植える。事前学習でも段取りは確認してあるし、3年前にも経験済み。みな慣れた手つきで自分たちのクラスの担当の場所に植えていく。そのすぐ脇を、数分おきに井の頭線が通過する。不思議な光景だ。

彼らの作業を見ていると、リュックサックを背負った男性がにこやかに近寄ってきた。林久喜校長だった。筑波大学生命環境系教授であり、農学博士。まさにこの道のプロである。

「昨日、栃木県から農家の方々に来ていただき、代搔(しろか)きをしてもらいました。さすがに代搔きは、生徒たちには難しいので」

代搔きとは、田植えの前に、耕運機で水田に水を入れ、土の塊を砕き、田面を平にする作業のこと。林校長は、稲作の基礎知識について、私に詳しく説明してくれた。ときどき「もうちょっと深く植えたほうがいい」などと、生徒たちにアドバイスする。

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