フランス高級ワインは日本で高値を崩せない 関税撤廃で欧州ワインは日本に押し寄せるか

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たとえば、スパークリングワインの代表格「シャンパン」。そもそも、シャンパンとは、フランスのシャンパーニュ地方で生産されたブドウのみを使い、厳格に定められた伝統的な方法で製造されたもののみが名乗ることができると、EUでは厳格に法で定められている。そのため、同じフランスでも別のエリアで作られたスパークリングワインは、「クレマン」や「ヴァン・ムスー」などの名称で区別されており、当然シャンパンとして売られることは言語道断、その名称は地域別に厳しく保護されている。

しかし、日本では、その名称はかなり緩やかな運用をされているのが実態だ。

ほぼ同様の工程を経て作られたスパークリングワインにはほかにも、スペインの「カヴァ」や、イタリアの「スプマンテ」「プロセッコ」、ドイツの「ゼクト」など多岐にわたるが、残念ながら日本では(まだこうしたフランスで伝統と誇りを持って定義された)シャンパンの名が、他種類のスパークリングワインの総称として使われたり、混同されて用いられたりするケースが少なくない。たとえば、飲食店で「このシャンパンはどこのですか?」と尋ね、「イタリア産です」「ドイツから輸入しました」などという答えが返ってきたら、残念ながらそれはアウトなのだ。

国税庁の担当者は「誤解を招きそうな表現や販売は規制されることになるかもしれない。シャンパンという名称が日本でどのように運用されているかなど、まずは検討を重ねて、慎重に線引きを考えていくことになる」と話す。

それによっては今後、「シャンパン風」などという表現が規制されることも考えられうる。

これは、シャンパンに限った話ではなく、ボルドーワインやスコッチウイスキーなど、ほかにも139の酒類のブランドを日本側は守ることになり、逆にEU側は「日本酒」や焼酎の「壱岐」、ワインの「山梨」といった名称を保護することになる。結局は、どちらが得か損かといった話ではなく、産地にこだわりを持って作られたそれぞれの国のものをその名称が広がる良い機会ととらえ、積極的に日本側からも売り出す契機として生かすことが重要なのかもしれない。

興味を持ってもらうことがまずは第一歩

フランス・ブルゴーニュのワイナリー経営者は言う。

「関税撤廃の効果は、高級ワインにはさほど感じられにくいとはいえ、少しでも多くの日本人にワインを好きになって興味を持ってもらうことがまずは第一歩。そこから、伝統や格式を重んじるワインの味わい深さにも入り込んできてもらえれば」と、控えめながら期待をにじませた。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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