ガンダム生みの親が今のアニメに感じる疑問 「ストーリーのゲーム化」に異議あり

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ガンダムで画期的だったのは、「正義の戦争」がないという世界観だった。悪の秘密結社が襲ってきて正義の味方が守る、というのが当時のお約束。だが、ガンダムは敵も味方もない、善と悪もない、戦争をただ戦争として描く。

──ガンダムのヒットでご自身にどんな変化があったのですか。

多くの人が僕たちを「時代の寵児」だともてはやした。

安彦良和(やすひこ よしかず)/1947年生まれ。弘前大学を中退。アニメーターとして『宇宙戦艦ヤマト』などに参加。79年『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン、作画監督。2001年から『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を連載、15年から同作アニメ版の総監督も務める

僕も得意になってスタジオを闊歩したものだった。並み居る先輩たちを超えて、自分の名前で企画を通し、仕事を創る「アニメ作家」になったのだぞって。

だが鼻柱を折られるのも早かった。僕が「アニメ作家」として1980年代に携わったアニメ作品は『アリオン』を含めほとんどが不発だった。一方で1984年にアニメ『風の谷のナウシカ』で大ブレークすることになる宮崎駿さんなど、真の「アニメ作家」が台頭してきた。もともと好きでも何でもなく業界に入った僕が、宮崎さんみたいな本当に好きな人には勝てっこないのだ。

だんだんオファーもなくなってきてね。でもなまじ名前が売れているから、仕事がなくなりました、何かください、なんて言えない。結局、どん詰まりになって、一度アニメ界から手を引いた。

覚醒したニュータイプが世界を救うって?

──しかし今は戻っています。ガンダムの連載漫画を描き終え、今秋には自身が監督するガンダムの新作映画も公開されます。

手を引いた後、1990年代の私は一漫画家として古代史というテーマに取り組んでいた。これは手応えもあった。歴史物で描きたいアイデアが山ほどあり、当分、仕事に困らないなと感じていた矢先だった。当時のサンライズ(ガンダムの制作会社)社長から漫画で初代ガンダムをやらないかって。当然、最初は断ったよ。冗談じゃない。自分はガンダムから抜けたのだ。

でも、そうは言いつつも、一部の人の、ガンダムへの認識に違和感を覚えていた。ガンダムにはエスパーのような能力を持った「ニュータイプ」という設定があり、主人公はそうした力を備えている。この部分が歪められて解釈されていた。ガンダムって、宗教の解脱よろしく覚醒したニュータイプが世界を救うという話でしょって。

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