元ロッテ小宮山悟が語る「理不尽練習」の意味 いじめや暴力と、愛のムチとは何が違う?

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もちろん、小宮山は体罰も暴力的な指導も肯定しない。しかし、合理的なものだけでは土壇場で耐える力、逆境を乗り切る力は身に付かないと言う。

大事なのは「歯の食いしばり方」を知っていること

「能力のある選手がいい指導者に教えられれば、ある程度のところまではいきます。若くして頂点に立つこともタイトルをつかむことも。しかし、その先にもうひと伸びするためには『歯の食いしばり方』を知っていることが大事なのです。せっかく才能を認められてプロの世界に入っても消えてしまう選手には、それが欠けているのかもしれません」

現在、大学野球部には学生コーチが多くいて、トレーニング方法やコンディショニングを学び、選手たちと共に実践している。かつて野球界で当たり前に行われていた時代遅れの練習は姿を消した。選手たちが、肉体面、技術面でレベルアップしているのは間違いない。

「私たちの時代は理不尽なことだらけでした。この練習をしてもどこに効果があるのか、不明なものは数限りなくありました。本来ならば、大学の4年間でテクニカルな練習をしなければならなかったのですが、その部分のサポートは望めませんでした。しかし、その分、前段階の部分を徹底的に鍛えることができた。文字どおり『死ぬほど練習した』ことが心の拠り所になりました。大学時代にしっかり土台を築くことができたから、長くプロ野球で投げられたのでしょう」

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合理的な練習とストレスのない人間関係によって、選手の技術が上がり、精神面が鍛えられればそれでいい。実際には、そうはいかずに回り道をしながら自らの腕を磨き、挫折を乗り越えた選手のほうが長くプロ野球で活躍しているのは事実だろう。

小宮山は時代が変わっても、まったく同じことがあると言い切る。「大切なのは『自分で納得できる練習ができたかどうか』。明日の試合のことを考えれば、いいかげんな練習ができるはずはありません」。

理不尽な練習、厳しい上下関係を即座に「悪」として切り捨てるのではなく、今一度、それらの本当の意味を考え、見直すべきではないだろうか。

元永 知宏 スポーツライター

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もとなが ともひろ / Tomohiro Motonaga

1968年、愛媛県生まれ。立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。直近の著書は『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、同8月に『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)。19年11月に『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』(集英社)。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長。

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