元ロッテ小宮山悟が語る「理不尽練習」の意味 いじめや暴力と、愛のムチとは何が違う?

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しかし、グラウンドだけでなく、それ以外のところでも、つねに厳しい規則と罰則があった。正しい指導もあれば、理不尽極まりない懲罰もあった。たった1人が部の規則を破ったことで、1年生全員が罰としてグラウンドを走らされたり、平手打ちを食らったりということも、当時は日常茶飯事だった。小宮山のように、1年の春からベンチ入りした目立つ選手に対して、先輩たちの目は当然厳しくなる。

「ベンチに入ったことのない人からすれば、何年も一生懸命頑張っている自分ができないことを入学したばかりの人間がしたことに対して『許せない』という感情を持つのは理解できます。それに、私はやられたことに対して『仕方ない』と割り切れたので、いろいろなことをされてもなんとも思いませんでした」

ただ、やはり残るものは残る。「そうはいっても、その人に対する感情は残りました。もちろん、悪い感情です。行為自体は割り切ることができても、感情は一生消えない。その場は、『理不尽なことをされたけど、仕方がない』と消化しただけで、やられたことを感謝するなんてことは絶対にありません。精神面が鍛えられたかどうかはわかりません。おかげで、反骨心みたいなものは芽生えましたが」。

「しつけ」に名を借りた「弱い者いじめ」

活躍の場を見いだせない人間がそのフラストレーションを下級生にぶつけることは、大学野球部に限らず、多くの部で見られる現象だろう。「しつけ」という大義を背負って弱い者いじめをする人間はいくらでもいる。「少なくとも、私の経験上では、『しつけ』と感じたことはありませんでした。その人が本当にしつけの役目を負っているのだとすれば、人間的にきちんとしていなければならない。しかし、私にはそう思えなかった」。

愛のムチか、ただの暴力か。その差は大きい。「その先輩が私たちに『歯を食いしばる方法』を教えてくれたのだとしたら、ありがたい話です。ちゃんとした人に『おまえ、しっかりしろ!』と言ってやられるのであれば、これは愛のムチ以外の何物でもないので、『すみませんでした!』と素直に頭を下げることができたのですが」。

意味のある指導と暴力を分けるものとは、何なのか。「愛のムチか暴力かという線引きは本当に難しい。その人のことを思って手をあげる人は、正しい人間でなければならない。そうではない人間が自分のストレス発散のためにやっていることは絶対に許すべきではありません」。

「鬼の連藏」の異名をとった石井連藏が早稲田大学野球部の監督に就任したのは、1987年、小宮山が2年生の冬だった。1958年に25歳で母校の第9代監督に就任した青年監督は「学生野球の父」といわれる飛田穂洲(とびた・すいしゅう)譲りの精神野球で選手たちを指導し、伝説の「早慶6連戦」を制した男。石井監督の指導を受けたことによって、小宮山は大きく飛躍を遂げた。

「石井さんは『弱いチームは練習しないと勝てない』という人だったので、練習量は相当なもの。投手が1日、500球、600球を投げ込むのは当たり前。『馬よりも走らなきゃダメだよ』と言われ、とことんまで走らされました。私がプロに入ってすぐに一軍で活躍できたのも、44歳までマウンドに上がることができたのも、石井さんによって課された練習の賜物だと思います」

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