英国「脱ディーゼル・ガソリン宣言」の意味

仏政府の決定に続き「電気自動車」の勝利

7月26日、英政府は、大気汚染の改善を目的にガソリン車とディーゼル車の新規販売を2040年から禁止すると発表した。写真はロンドンで充電する電気自動車。2016年4月撮影(2017年 ロイター/Neil Hall)

[ロンドン 26日 ロイター] - 英政府は、大気汚染の改善を目的にガソリン車とディーゼル車の新規販売を2040年から禁止すると発表した。100年以上にわたる内燃機関の時代に幕が下りるかもしれない。

フランス政府による同様の決定に次ぐ今回の英政府の決定は、電気自動車(EV)の勝利を意味する。こうした決定が世界各国で続けば、産油国の富が打撃を受けるだけでなく、自動車産業の構造変化が促され、20世紀資本主義を代表する存在だった自動車そのものが変わることになる。

パリやマドリード、メキシコ市やアテネの市長はそれぞれ、2025年までに市街地中心部へのディーゼル車乗り入れを禁止する計画を発表している。仏政府も、2040年までにガソリン車とディーゼル車の新規販売を禁止する方針だ。

英政府は、民間団体から訴えられた裁判に相次いで敗れて以降、大気汚染を減らす政策を取る圧力にさらされていた。メイ首相の保守党は、2050年までに「ほぼ全ての自動車とバン」を、排気ガスの出ないゼロエミッション車にする公約を掲げる。

「2040年までに、ディーゼル車とガソリン車の新車はなくなる」と、ゴーブ英環境相は英国放送協会(BBC)ラジオで語った。新たな規制は、電動モーターと内燃エンジンの両方を備えたハイブリッド車(HV)ではなく、内燃エンジンだけを備えた車が対象になるという。

だが、実現への道は容易ではない。

EVは現在、英国で登録される新車の5%にも満たない。ドライバーがコスト高や充電スポットの不足を心配する一方、メーカー側は十分な需要が生まれる前に多額の投資を行うことに慎重な姿勢を見せている。

「十分な移行期間を与えなければ、好調な英国の自動車産業をだめにしかねない」と、英自動車工業会(SMMT)のマイク・ホーズ最高経営責任者(CEO)は言う。

ホーズ氏によると、英国には公共の充電スポットは1万2000カ所しかなく、新たな充電インフラの整備のほか、多くの人が同時に充電しても対応できる電力網も必要になる。

電気自動車は未来か

多くの自動車メーカーにとって、内燃エンジンの終わりを受け入れるのは困難な一方で、EVや、さらには無人運転自動車に未来を賭けるメーカーもある。

スウェーデンのボルボ・カー・グループは今月、2019年以降に発売する全ての新モデルを完全なEVかHVとすると発表し、老舗の大手メーカーでは初めて「脱内燃機関」の期限を切った。

ルノー・日産連合は2009年に、EV開発に40億ユーロを投資する計画を発表した。

しかし、独フォルクス・ワーゲン(VW)が2015年に米国のディーゼル排気試験で不正を行っていたことを認めるまで、ほとんどの自動車大手で、電気自動車に大規模投資する動きは鈍かった。

ディーゼル車なしで二酸化炭素(CO2)排出削減目標を達成するのは困難だが、ディーゼルへの風当たりが強まったことで各メーカーは戦略を再考し、新たな目標を打ち出し始めた。

VWは昨年、2025年までに30車種の新たな電気自動車モデルを発表し、全体の生産台数の最大約25%にあたる年間200万─300万台を販売する野心的な計画を発表した。

「今の内燃機関は、少なくとも今後20年は価値を保つだろうが、未来が電気自動車にあるのは明白だ」と、VWのマティアス・ミュラーCEOは今年語っている。

ディーゼル技術を強力に擁護してきた仏自動車大手PSAグループのカルロス・タバレスCEOも、消費者の需要と政府の補助を前提に、電気自動車の大量生産に移行する考えを26日示した。

「電気自動車の興隆は、政府の補助金や支援に依存する部分が大きい」と、タバレス氏はアナリスト向け1-6月期決算説明会で述べた。PSAは、完全EVと、プラグインハイブリッド車の新モデルを2019年から発表する予定だ。

ハイブリッド技術の先駆者であり、バッテリーのみのEV開発に消極的だったトヨタ自動車は昨年戦略を転換し、100%EVの新モデルを投入する計画だ。

欧州では、いわゆる「グリーンカー」の所有者は、補助金や減税措置などの恩恵が受けられるが、エンジン車の場合は運転条件や駐車制限が課せられるなど、ペナルティーが重くなりつつある。

大都市圏の大気汚染が危機的状況にある中国では、政府がプラグイン車の普及を後押ししている。だが米国では、EV普及への関心はずっと低い。

VWのほか、ダイムラーやBMWなど大手自動車メーカーの本拠地であるドイツも、近くガソリン車やディーゼル車の段階的な削減を開始するだろうと、メルケル首相のキリスト教民主党で交通政策を担当するオリバー・ビトケ氏は言う。

しかし欧州最大の自動車市場では、抵抗も予想される。ドイツで内燃機関が禁止された場合、2030年までに60万超の雇用が影響を受けるリスクがあると、ドイツ自動車工業連盟(VDA)の依頼を受けて作成されたIFO経済研究所の報告書は指摘している。

ドイツの大手各社は、ガソリン車より燃費が良く、CO2排出量が少ないディーゼル技術に多額の投資をしている。

今回の英国政府の発表を受けて、ドイツ政府の報道官は26日、メルケル首相はディーゼル車を「悪者」にすべきでないとたびたび発言している、と述べた。

ディーゼル車が欧州での販売の3分の2を占めるVW傘下のアウディの広報担当者は、ディーゼル車を「排出規制がより強化される未来にも適合させることができる」と述べた。

石油の終焉か

だが英国の動きは、欧州第2の自動車市場でディーゼル車の衰退に拍車をかけるだろう。ディーゼル車が排出する窒素酸化物(NOX)は、呼吸器疾患の原因となっているとの指摘も出ている。

英政府は、汚染のひどい道路にディーゼル車が乗り入れるのを制限するスキームを推進するため、地方当局向けに2億5000万ポンド(約364億円)超を拠出する。一方で、汚染度の高い排ガスを出す車の利用者に対して料金を課すなどの罰則を導入する前に、他の選択肢を全て尽くすべきだとしている。

また、汚染のひどい道路を対象の車が利用することに制限を設ける場合は、時間を制限し、汚染状態が解消され次第、制限は解除されるべきだとしている。

ゴーブ環境相は、ディーゼル車を市街地中心部から締め出したりコストをかけて廃車にしたりする方法よりも、道路ごとに利用制限を決める方法が望ましいとの考えを示した。ただ、地方当局が適当と判断すれば、前者も排除しないとした。

英政府は年内にも、限定的な廃車促進策などの方法を議論する予定という。

ロンドンのカーン市長(労働党)は、政府の約束は中途半端で、大気汚染対策として2040年までに取らなければならない手段があると述べた。

「汚染を広める車をわれわれの街から直ちになくすために、ディーゼル車の廃車費用を支給するファンドがいま必要だ。また、英国の街が空気清浄化対策を取れるよう、新たな権限も必要だ」と、カーン氏は声明で述べた。

世界の原油需要は今がピークの可能性があり、今後どのような手段でさらなる電力を確保すべきかという議論にも、今回の英政府の決断は一石を投じることになるだろう。

英蘭系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルなどは、早ければ向こう10年以内に、需要がピークを迎えるとみている。

業界データによると、英国では今年上半期、ディーゼル車の販売が10%減少する一方で、ガソリン車販売は5%増加した。EVとHVの販売は約30%増加し、全体に占める割合は少ないながらも、最大の伸び率となった。

(Kylie MacLellan記者、Guy Faulconbridge記者 翻訳:山口香子 編集:伊藤典子)

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