NHK渾身の「AIに聞いてみた」が炎上した必然 バズるワードへの傾倒がもたらす報道の歪み

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「AIに聞いてみた」という番組に批判が集まることも、それを擁護するかのような動きが見られたのも、AIという技術に対する認識が実に曖昧で、誤解を多く含んでいること。そして、それを伝えるマスコミ側にも多少の誤解を期待しながら一般層に見て欲しい(読んで欲しい)という色気がある。そのほうがおもしろいし、一般層が興味を持ってくれるからだと思う。

しかし、実際にはコンピュータ(あるいはクラウド)の中に垣間見えるインテリジェンスは、本当のインテリジェンスではない。“インテリジェンスのように見える”振る舞いをすることはあっても、実際のコンピュータは“認知”が不可能なため、結果として物事を柔軟に考えることはできない。あたかも考えているかのように観察される振る舞いはあるが、それはたまたま“そのように見える”だけだ。

筆者は国立情報学研究所(大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構)が中心となって2011年に立ち上げられたプロジェクト「ロボットは東大に入れるか」において研究・開発が進められていた人工知能「東ロボくん」の取材をしたことがあるが、このプロジェクトの座長を務めていた国立情報学研究所の新井紀子博士が懸念していたのも、こうした状況だった。

彼女はAIの限界が研究の進行にともない明らかになっているのにも関わらず、あたかも“知能があるかのように”期待を煽りすぎる昨今の状況を“バブル”と評し、AIバブルが弾けると予想していた。

筆者が新井博士に話を聞いたのは、昨年末、東京大学に合格できるだけの能力を身につけることを目標としていた東ロボくんのプロジェクト断念を発表した直後のことだが、おそらく今でもその考えは変わっていないだろう。

“できないことは何もない”は間違い

コンピュータサイエンスの世界では、急速な計算能力の向上から“できないことは何もない”かのように語られることがある。そうした意味では、いずれは自律的に動くAIも開発可能ではないか?と思えるが、“インテリジェンス“と呼べる程度に必要な計算量を予測したところ、計算量が爆発的に増えていくため計算能力が無限大に必要となり”技術的に不可能”なのだそうだ。

しかも、東ロボくんの開発においては、状況を把握するための“認知”プロセスは省かれているにもかかわらずだ。東ロボくんはセンター試験と同じ問題を解くが、東ロボくんに与えられるのは画像データではなくテキストデータであり、コンピューターが正しく問題を処理できるようデータフォーマットも整えられている。

加えて過去問題のパターンから、どのようなタイプの問題が出されるかを、各教科用問題解決プログラムの開発者が認識し、それぞれの問題タイプに合わせて専用のアルゴリズム(問題解決の手法)を開発者が研究してプログラムしている。つまり、人間が問題解決方法をあらかじめ考えて用意し、そこにセンター試験の問題を当てはめることで結論を導き出しているのだ(数学に関しては別のアプローチをしているが、“考えていない”ことに変わりはない)。

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