原油相場がジワリ上昇している2つの理由 OPEC等供給側だけを見ていてはわからない

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また、中国の動向にも注目しておきたい。中国の6月の全体の原油輸入量は3611万トン(日量879万バレル)で、2カ月連続で世界最大の原油輸入国だった。特に最近はロシアからの輸入を増やしており、ロシア産原油の輸入量は前年同月比27%増の日量127万バレルで、4カ月連続で最大の原油輸入相手国となり、これは過去最長となっている。

ロシア産原油の輸入量そのものは、過去最高だった5月の日量135万バレルからは減少したが、それでも高水準であることに変わりない。また、サウジアラビアからの輸入量は減少を続けており、6月は15.8%減の日量93万6607バレルだった。サウジの輸出削減の動きと、ロシア産を積極的に輸入する方針の結果といえるだろう。

中国が年間の原油輸入で初の世界首位へ

一方、中国の国有石油大手である中国石油化工集団(シノペック)の張海潮・副社長は、2017年の中国の原油輸入量が4億トンを上回るとの見通しを示している。原油価格が安いことや中国内の原油生産量が減少していることを理由に挙げる。2018年の原油輸入量は2ケタの伸びになるとみているという。張氏の予想では、今年の中国の原油輸入は日量40万バレル前後増加することになり、中国は年間の原油輸入量で初めて世界首位に立つとみられている。中国の今年1~6月の原油輸入量は2億1200万トン(日量855万バレル)と、前年同期を14%上回っている。中国国内の燃料製品は供給過剰の状態にあることから、国有石油大手各社は7~9月に製油所の精製能力を10%削減する見通しだが、それでも年末まで原油の輸入需要は堅調に推移するとみられている。そうなれば、需給面において相応のインパクトがあるだろう。

市場は供給面ばかり見ているようだが、需要面も加味したうえで上記のような全体の需給動向を見渡せば、市場の現状認識が必ずしも正しくないことがわかるだろう。

そもそも、主要産油国が持続的な生産を継続できない現状の原油価格の水準が今後も続くと考えることに無理がある。

以前からも指摘しているように、原油価格は生産者の意向で形成されるものだが、それが投機筋の売りなどで歪んでおり、現状の水準では採算が取れない状況が長期化している。しかし、こうした状況は、生産者による減産が進むことで需給バランスが改善し、原油価格は反転に向かうことになる。いずれそのような動きになるのは見えているが、そうなるにはまだまだ道のりは長く、遠い。しかし、それは時間が解決してくれるだろう。

市場の大勢は依然として弱気だが、目先の材料だけを見ているにすぎない。また、主要金融機関も原油価格見通しを大幅に下方修正している。このような市場見通しの下方修正の動きは、底値を付けるときに見られる現象である。そろそろ反転・上昇に向かってもまったく不思議ではない。WTI原油は55~60ドルが中立的水準であり、最終的には70ドルから75ドル程度にまで上昇してもおかしくない。問題は、それが起きるかどうかではなく、いつ起きるかであると筆者は考えている。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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