戦後72年「戦後はまだ終わっていない」理由 日本人は勇気をもって「敗者の歴史」を学べ

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中国や韓国は日本にいつまでも「お詫び」を要求する、何度も詫びたのだからもう十分じゃないかという意見は日本国内の一部の声ではない。しかし、日本が中国に対して十分やるべきことをやったかというと必ずしもそうとはいえない。

中国吉林省敦化市ハルバ嶺には、いまも旧日本軍が遺棄した毒ガス兵器が推定で約20万~30万発埋まっている。「化学兵器禁止条約」上、このおびただしい数の毒ガス兵器を回収・処理する責任は日本政府にある。中国各地から出土した毒ガス兵器はこれまで5万6000発だ。すべてを処理するのは、気の遠くなるような時間を要するだろう。毒ガス兵器は中国に遺してきた日本の負の遺産である。

先の大戦からすでに72年が過ぎる。しかし、遅すぎる対応でもしないよりはよい。慰霊や遺骨の収容は、いまだに残る優に20万発を超える毒ガス兵器の回収・処理を進め、ある程度のメドがついた段階で一歩前進すると私は思っている。ここでもまだ戦後は終わっていない。

日本人は敗者の歴史を学ぶ勇気を持て

歴史とは勝者の物語である。過去から現在までに起きた事実に、勝者にとっての意味を持たせるのが歴史なのだ。

中国の現代史は、中国共産党の勝利の物語である。共産党が、いかに正しかったかを書いているのが中国の現代史だ。中国の現代史では中国は被害者であり、勝者である。逆に日本軍は侵略者であり、加害者であり、敗者だ。韓国の現代史もおそらく同様だろう。

中国や韓国の現代史はわれわれ日本人からすれば、すべてが納得できるというものではない。だが、歴史とは勝者を正当化するものである以上、彼らの現代史が過去の日本を徹底的に否定するのは、彼らの歴史を正当化するうえで欠かすことはできないことなのだろう。われわれにとっては賛同できない歴史であっても、彼らには語るべき現代史がある。

一方、敗者である日本には語るべき現代史がない。戦争中、陸軍本土防衛特別攻撃隊の一員だったライフコーポレーションの清水信次会長は「いまの日本で大事なのは若者にきちんと現代史を教えることだ」と言っていた。

清水会長は「しかし、最近は戦争を知らない人が圧倒的な多数になった。戦争を知らないまま戦争を賛美したり、戦争をしてもいいみたいな威勢のいいことを言う人も見かける」と現代史を学ぼうとしない人々を危惧している。

私は、日本人はあえて「敗者」の歴史を、勇気を持って学ぶべきと思う。普通の国は「勝者」の歴史を学ぶが、日本が目指すべきは敗者の物語も真摯に検証していく「特別な歴史」の学びである。

検証すべきことは何か。それは、戦争は国民を犠牲にする。戦争で益する人はいない。結局、人も物もすべてを害する。特に弱い立場の人ほど犠牲になる。日本は二度と戦争をしてはいけないということである。これらは敗者の歴史からしか学べない重要なことだ。

戦争を知っている世代が元気で、政治の中枢にいた時代は現代史を知らなくてもまだよかった。しかし、戦争を知っている人がいなくなっていく現在、日本人は文献や記録からだけでも戦争を学び知らなくてはいけない。

日本は無責任文化から決別し、現代史を学ぶべきである。それが敗者の歴史に重要な区切りをつける最後の年になりつつある今年の8月15日に、私が強く言いたいことだ。

丹羽 宇一郎 日本中国友好協会会長

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にわ ういちろう / Uichiro Niwa

1939年愛知県生まれ。名古屋大学法学部を卒業後、伊藤忠商事に入社。同社社長、会長、内閣府経済財政諮問会議議員、日本郵政取締役、国際連合世界食糧計画WFP協会会長などを歴任し、2010年に民間出身では初の中国大使に就任。現在、公益社団法人日本中国友好協会会長、一般社団法人グローバルビジネス学会名誉会長、福井県立大学客員教授、伊藤忠商事名誉理事。著書に、『丹羽宇一郎 戦争の大問題』東洋経済新報社、『人間の器』幻冬舎、『会社がなくなる!』講談社など多数。

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