ASEANとの経済連携協定を軸に東アジア共同体を構築せよ!

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日中韓+ASEANの大きさ

 現在、ヨーロッパ・ユニオン(EU:欧州連合)は25カ国の参加となっており、その規模は人口 4億5530万人、GDP 12兆6906億ドルです。また北アメリカにおいても、アメリカ、カナダ、メキシコと「北米自由貿易地域」(NAFTA)が実現され、人口4億2921万人、GDP13兆3237億ドルの経済圏ができています。

 一方、ASEAN自由貿易地域(AFTA)は、人口こそ5億4436万人と膨大ですが、GDPは7844億ドルと経済規模はそれほど大きくありません。したがって今回、このASEAN自由貿易地域に日本の人口1億2776万人、GDP4兆6234億ドルが加わる意義は非常に大きなものがあります。
 また、ASEAN10か国に日中韓、香港、台湾を合わせると、世界人口の3分の1(20億人)と世界のGDPの5分の1(7兆ドル)を占めます。さらに、インド、豪州及びニュージーランドを加えると、世界人口の半分(31億人)と世界のGDPの4分の1(約9兆ドル)を占めることになります。このデータは、2003年現在のデータです。今後、この地域の成長を考えると、より存在が大きくなるでしょう。 ただ、ASEANは加盟国間の経済格差が大きく、また、文化的な相違もあります。したがって、ASEANそのものの経済統合自体にも「もっと時間がかかる」(オン・ケンヨン事務局長)といわれています。より長期的な視野からの経済連携を進める必要があるというわけです。

中国・韓国とのイニシアティブ競争

 今回、行き詰まった日-ASEAN交渉を後押ししたのは、韓国アセアンのFTA締結でした。それまでは、政府内の議論や経済界の議論を見ていても、ASEANとの経済連携のメリットや農業問題への対応などから、日-ASEAN経済連携を急ぐ必要はないといった議論もありました。しかしながら、韓国がFTAを今年6月締結したことにより、まずTVなどAV分野での競争環境が不利になるとの危機感が、大きなモチベーションになりました。実際、東南アジア市場では、サムスン電子やLG電子など韓国企業がどんどんシェアを伸ばしています(インドやブラジルでもすごい攻勢のようです)。また、引っかかっていたタイやベトナムについても、自動車部品は関税率の削減にとどめ、完成車は対象から除外することで決着しています。

 さらに韓国は、アメリカとのFTA締結にも合意し、EUとのFTAを交渉開始するなど、FTAを戦略的に展開しています。アメリカとのFTA締結に当たっては、農業問題で大きく譲歩し、国内では農業従事者のデモが起きるなど混乱していますが、政治的イニシアティブでどんどん進めています。2年前に韓国のFTA研究センター長と議論をしたことがあります。韓国政府は、大学にFTA研究センターを設立し、FTAの戦略を打ち立てていました。
 
 日韓FTAは、現在交渉が決裂しています。日本国内では、「韓国の反日感情が理由」との理解がマスコミで流れていますが、私が聞いた話では、「日韓FTA交渉における農業の自由化はレベルが低く(日本側の要望で)、韓国にとっては想定していた韓米FTAとの格差が大きすぎ、韓国は米韓FTAを優先し、日本とのFTA交渉は止めることにした」ということです。私はそれが真実だと思います。韓国はアジアだけでなく、アメリカ、EUといった巨大な経済圏を睨んだFTA戦略を持っているのです。  
 一方、中国は、香港、アセアン、マカオといった自国の近辺からはじめ、GCC、NZ、オーストラリアといった資源確保に向かっているといえます。中国のFTA交渉も社会科学院の研究センターにおいて、FTAの経済効果などを分析しながら進めています。

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