「競争法リスク」に求められる経営判断とは? 数百億円の制裁金、個人の収監事例も発生

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茂木 そうですね。国内企業だけなら、まだ目が届くのですが、M&A(合併・買収)した海外の企業となるとなかなか手が回らないのが実情ではないでしょうか。特に、南米やアフリカなどの企業では、距離の問題もあり、容易ではありません。もう一つの問題は、不正事件が起きたときには経営者が「再発を防止する」と宣言して、行動憲章を作って研修もするのですが、半年もすると冷めてしまうところが多いことです。

渡邉 コンプライアンスを徹底する中での問題の一つは、事件の経過にしたがって事件が風化してしまいがちなことです。また、自分の事業部の役員が起訴されたといった場合は身近に感じ、絶対にしてはいけない、と強く感じるかもしれませんが、関係が薄いときは、ひとごとに感じてしまい、緊張感が保てないということもあります。なお、企業によっては旧来の業界の慣行をそのまま引きずって「カルテル体質」や「カルテル慣行」のある部署や担当者が存在することがあります。このような体質・慣行のある人が他の部署に異動すると、悪しき体質・慣行が「輸出」されてしまい、リスクを広げてしまうことにもなりかねません。

求められるのは、経営者の不退転の決意

茂木 寿
有限責任監査法人トーマツ ディレクター
リスクマネジメント、クライシスマネジメントに関わるコンサルティングに従事。政府機関・公的機関の各種委員会(経済産業省・国土交通省・JETRO等)の委員を数多く務めている

茂木 今後求められる取り組みという意味では、まずは自社にどのようなリスクがあるか評価すべきでしょう。そのうえで、グローバルのコンプライアンス・ポリシー、つまり、やっていいこと、いけないことを従業員一人ひとりに意識づけることが大切です。そのためのコンプライアンス研修も必要になります。もちろん、一度やっておしまいというわけではなく、PDCAの観点で、継続的に行っていくことが大切です。コンプライアンスプログラムの作成や従業員の教育を定期的に行っていることや、内部通報制度などを設けていることは、当局に対してもアピール要因になります。

富田 従業員の研修という点では、コンプライアンスに関する当社のeラーニングプログラムへの引き合いも増えています。これも経営者の方々のリスクに対する姿勢が変化してきた表れかもしれません。

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