プロ野球交流戦「廃止論」が毎年浮上する事情 観客動員増でも「おいしくない」球団もある

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チケットを買っていながら直前になって来られなくなるという事態は、一般席の場合はさほど起きないだろうが、年間指定席ではそこそこの確率で起きる。来られない日の分を球団が別の日の内野指定席や球場内で使用できる商品券と交換するなどし、球団で引き取って再販売する球団もある。

だが、まったくそういった手当てをしない球団もある。そのような球団の場合は、年間指定席の購入者が、行けない日のチケットをチケットショップに売ったり、転売サイトに出品したりしてしまう。球団は年間指定席の転売を禁止しているが、基本的に「取り締まる」ことはできていない。

実際は空席なのに「入場者」として数えられる理由

したがって、転売市場で行けない日のチケットが売れれば座席は埋まることになるだろうが、売れなかったり、あるいは売りに出さないので空いたままである場合、実際は空席なのに入場者数にはカウントされることになる。この現象は、営業力はあるが人気はないという球団で起きがちだ。

また、無料配布の招待券が大量に発行されているかどうかも球団によって大きく異なる。招待券の来場者数が増えると、確かに観客動員数は増えるのだが球団の懐は潤わさない。

年間指定席では仕事などの都合で「来られない」客がそれなりに出ることが見込まれると述べたが、一般席でもチケットの売れ方と実際の観客数との間にズレが生じうる。

人気カードの場合に、観戦目的ではなくチケットの転売を狙う「チケットゲッター」の標的になった場合、どうなるか。ゲーム開催までに観戦目的の人の手に渡れば客席は埋まるが、転売市場で大量に売れ残れば、チケットは完売なのに空席が目立ち、それなのに公表は満員御礼という現象が起きる。

根強い「プロ野球観客動員数水増し疑惑」の主な原因は、こうした「実数に近い」人数を動員数として発表していることにある。

では、各球団について、観客動員数増がどう経営に寄与するのか、実際に見ていこう。まずは福岡ソフトバンクホークスからだ。12球団中、唯一、球団自身が自前で球場を持っているのがソフトバンクだ。グループ会社や親会社が持っていたり、所有は自治体だが、施設の管理・運営を委託される指定管理者になるなどして実質支配している球団はほかにもある。だが、文字どおり球団自身が持っているのはソフトバンクだけなのだ。

ソフトバンクの本拠地・ヤフオクドームは、かなり複雑な経緯をたどったがために、権利関係も複雑になっている。ここでは詳細な経過は省かせていただくが、2012年3月までは、年間50億円もの賃料を払ってファンドから借り、それ以降は年間20億円のリース料を支払っていた。

そして、2015年7月、晴れて球団のモノになったのだが、もともと球場内の飲食・広告看板収入はダイエーホークス時代から、ごく短期間を除いて球場ではなく球団の懐に入っていた。だから、観客動員数はチケット収入と飲食収入に、そのまま寄与する。平均動員数が増えればゲームスポンサーや球場内の広告看板営業もやりやすくなる。

2013~2017年まで、1試合平均の観客動員数がリーグ戦を下回る東北楽天ゴールデンイーグルスも、運営形態上は本来、観客動員数増によるインセンティブが高いはずの球団だ。球場は宮城県の所有だが、改装費を全額負担して宮城県に寄付、その代わりに運営権を得ているので、所有しているのと同様の効果を享受できる。

交流戦で観客動員のパフォーマンスを上げられないのは、対戦相手のセ・リーグ球団が首都圏以西に集中しているため、さすがに東北まで遠征するのは、ファンにとってハードルが高いのかもしれない。6月9日の広島戦を観戦したが、カープファンの出没率は、首都圏以西の球場に比べると、だいぶ低い印象だ。

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