一流の経営者が常に「即断即行」をできるワケ ゆっくり考えている経営者に勝機はない

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私が経営担当責任者になる前までは、前任者が決済に1カ月も2カ月もかけていましたが、私は、すべての決済はほとんどその日のうちに済ませました。企画決済など速いものであれば、1件につき3秒、まさに秒単位で行っていました。

よく「決済未決」「決済済」の2段のトレーを置いている社長がいましたが、そのようなトレーを私は決して置くようなことをしませんでした。まして、今日はBARIS(ビッグデータ、AI、ロボット、IoT、シェアリングエコノミー、それぞれの頭文字)革命の真っただ中。第4次産業革命、インダストリー4.0の真っただ中。3秒でも遅いかもしれない、まして翌日ではさらに遅い。まさに「瞬時」に決断し、「瞬時」に行動を起こさなければ、致命的な「遅さ」となり、「敗北」につながるといえるかもしれません。

即断即行の必要な心掛けとは?

それでは、「即断即行」を的確に行うために、どのような心掛けが必要でしょうか。

それは日頃からの情報収集です。経営者は他の人の話について論争するのではなく、こういう考え方もある、そういう考えもあるかもしれないというように、経営に資する情報を収集する努力を怠らないようにするべきです。

論争は、若手や部下の人たち、評論家に任せておけばいい。経営者が心掛けなければならないことは、即断即行しなければならないときに、的確な行動ができるように、情報収集に邁進することです。

経営者になれば、孤独に最終決断をしなければなりません。誰も助けてくれないのです。そして、結果責任は社長1人が負わなければなりません。正しい手段によって正しい結果を出さなければならないのです。

松下幸之助さんは「衆知経営」ということを実践していました。「なにかの問題のときには部下の話を聞け」「社員に意見を訊(たず)ねよ」「お客様の声に耳を傾け」といったものです。そのようにして自分の考えを確かめ、時に修正し時に考えを変える。自分なりに納得した絶対的自信のある結論を社員に話すようにしていました。

そういう「衆知経営」は、即断即行と矛盾するではないかと指摘されるかもしれません。ところが、そういうプロセスを経る時間的余裕のないときには、また瞬時に決済しなければならないときには、躊躇なく、まさに即断即行をしていましたし、大抵、成功を収めることができました。結果をきっちり出すことができました。

なぜでしょうか。それは既述したとおり、日頃から松下さんが他人の話を静かに聞いて、あるいは部下に尋ねて、その内容を頭の中の「情報BOX」の引き出しにしっかり収めていたからです。

経営者は自分の考えを高めるための議論は必要ですが、議論のための議論、感情に任せての議論は禁物です。つまり、評論家になる必要はないのです。特に相手を論破するための議論は愚かなことだと心に留めておくべきでしょう。すべては、いざというときの「即断即行」のため、すべては「会社発展」のためと肝に銘ずるべきです。

江口 克彦 一般財団法人東アジア情勢研究会理事長、台北駐日経済文化代表処顧問

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えぐち かつひこ / Katsuhiko Eguchi

1940年名古屋市生まれ。愛知県立瑞陵高校、慶應義塾大学法学部政治学科卒。政治学士、経済博士(中央大学)。参議院議員、PHP総合研究所社長、松下電器産業株式会社理事、内閣官房道州制ビジョン懇談会座長など歴任。著書多数。故・松下幸之助氏の直弟子とも側近とも言われている。23年間、ほとんど毎日、毎晩、松下氏と語り合い、直接、指導を受けた松下幸之助思想の伝承者であり、継承者。松下氏の言葉を伝えるだけでなく、その心を伝える講演、著作は定評がある。現在も講演に執筆に精力的に活動。

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