早稲田直系の付属校は「山」で秀才を育てる 東京ドーム約15個分の校地全体が生きた教材

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生徒たちは自然と3~4人のグループに分かれて行動している。大きな木が多く、野鳥もかなり高いところにいる。鳴き声はにぎやかに聞こえるが、姿を見つけるのはなかなか難しい。野鳥の姿をスケッチするにも、野鳥もじっとはしていてくれない。スマホのカメラで撮影しようにも、望遠レンズでも接続しないかぎり鮮明には写らない。「オレのこれ、たぶん、ただのスズメだと思うんだよな……。まあ、いいか」。そんなことをつぶやきながらスケッチする生徒もいる。

生徒たちと森の中をさまよっているとそれだけで、森林浴をしている気分になって癒やされる。近隣にコンビニやファストフード店はまったくない。しかしこれ以上なくぜいたくな環境である。

大久保山を通して英語も統計もプレゼンテーションも

野鳥を探して樹上を見上げる生徒たちの近くには、金属探知機のような器具を持ち地面ばかりを見ている集団もいた。こちらは「大久保山学」の別の授業「大久保山の植生と森林生態学」の生徒たちだ。手にしていたのは二酸化炭素の測定器。地面付近の二酸化炭素量を測定し、地面がどれだけ「呼吸」しているかを調べているとのことだ。それによって地中の微生物の活動量がわかる。

「大久保山学」の授業は週1コマ。「大久保山と地球環境」「『平家物語』からみる武蔵武士」「本庄市周辺の文学」「不確実性下における意思決定入門」「大久保山で『変化を捉える』」「大久保山で科学する」「大久保山の植生と森林生態学」「大久保山に生活する人たちって、どんな人?」の8つのコースの中から1学期と2学期に、別々のコースを選ぶ。

「大久保山学と地球環境」の授業では、環境に関する英語のエッセーライティングに挑戦する。「大久保山に生活する人たちって、どんな人?」では統計学を学んだりプレゼンテーションの練習をしたりもする。

いままでも敷地内の恵まれた環境を利用した個別の授業はたくさんあった。今回はそれらを統合し、学校の特徴として打ち出す動きである。

「生徒たちは関東の広い地域から通学してくれています。卒業後は世界各地で活躍する人も多いでしょう。自分の生活の場を知ることは、自分の“根っこ”つまりアイデンティティをつくることにほかなりません。であれば本庄高等学院の生徒たちが大久保山について学ぶことには、彼らのアイデンティティとなるはずです。そのアイデンティティがあればこそ、世界のどこへ行っても活躍できる人になるのではないか。そんな思いを込めています」(吉田学院長)

「大久保山学」はまだ生まれたばかり。これから数十年という時間をかけて、本庄高等学院の教育の目玉として、学校の財産として、そして卒業生たちの心の拠り所として、発展していくことだろう。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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