風船のような米国株が割れるのはいつなのか 「針のひと刺し」の役割を担うのは何か?

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こうした予算案が明らかとなる9月以降は、経済対策に対する市場の期待にとどめが刺され、米国株価や米ドル相場は、相応の下落を示すことになるだろう。水がたまった風船に針が刺さるわけだ。ただしそれは、もう少し先の話。9月初めころまでは、市場内部の物色に無理がゆっくり溜まりながらも、米国株価指数全般としては、もう少し高値を更新し、それが米ドル相場も支えることとなろう。

日本株は、短期筋の先物売りと長期筋の買いの攻防

そうすると日本株はどうなるだろうか。当面は上値を追いそうだが、9月以降は米株安・米ドル安の直撃を受けて、調整色を強めそうだ。

しかしその前の日本株は、強調展開が期待できる。足元では、海外短期筋が、日経平均先物を売っているとの観測が有力だ。これは、シカゴの為替先物市場で、一時投機筋の円売りが積み上がり、それが巻き戻しに入ることで、1ドル=114円台に達した円相場が111円台へと円高に振れている。その円高を材料とした日本株全般の下落に賭けた、短期筋の動きだと推察している。

また、一部では、短期筋が売りに回っているのは、安倍晋三内閣の支持率低下のためだ、とも言われている。ただ安倍政権がすぐに倒れるわけではなく、現在の日本の株式市況が政策頼み、という様相でもない。そのため、短期筋が政治要因から先物売りを進めているとしても、本気で日本の政治動向を懸念しているというより、それを売りの口実にしているだけであろう。

一方で、個々の銘柄の物色意欲は強い。このため、TOPIX(東証1部株価指数)で測った日本株式市況は支えられ、結果としてNT倍率(日経平均株価÷TOPIX)は、足元、低下している。こうした個々の銘柄を買い入れているのは、国内長期筋であると考えられる。東証1部の投資家別売買動向をみると、年金等の資金を受託している信託銀行は、5週連続の買い越しとなっている。

個別の株式買いの要因は、特に設備機械関連を中心とした輸出企業の収益実態が改善していることだ。マクロ経済統計でみても、日本からの輸出前年比は、まず輸出数量指数が先に改善をみせ、後から金額が追い付いてきた展開。この背景には、世界景気の持ち直しにより、海外諸国における日本製品への需要が回復してきたことが挙げられる。

とりわけ設備投資については、昨年は年初からの世界的な株価下落や、原油価格低下による産油国経済に対する疑念、加えていわゆる英国のEU(欧州連合)離脱の影響の不透明さなどから、企業経営者が設備投資を大きく抑制した。この反動が足元で生じており、日本の工作機械、産業用ロボットや、それを支える機械部品、電子部品などに恩恵が表れている。先週発表の安川電機の四半期決算は、明るい驚きをもって市場は捉えたが、今週以降本格化する決算の内容も、全般的には好調な内容が多いだろう。

このように、日本株については、海外短期筋による全体論に基づいた日経平均先物売りが上値を抑えているが、国内長期筋による個別企業実態の好転による、個別銘柄投資が株価の支えとなっている。これからの企業決算発表の本格化も踏まえると、8月から9月初めあたりにかけては、全体売りより個別買いの方が勝るだろう。そうした流れを踏まえ、今週の日経平均株価の推移を、1万9900~2万0300円と予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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