バス会社を次々買収、「みちのり」とは何者か 買収戦略から将来構想まで経営トップが激白

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「簡単にできるはずがない」と思っていた現場のスタッフも丁寧な説明を重ねた結果、納得してくれた。「納得してもらえれば、信念を持って仕事をしてくれます。だから説明を重ねることは苦ではありません」と、松本社長はこともなげに言う。

岩手県北自動車で始まった貨客混載事業は、2016年に茨城交通でも実施。常陸太田市から首都圏に向かう高速バスを使って茨城産の新鮮な野菜を消費地まで運んでいる。

盛岡から宮古へ1日1便輸送(写真:みちのりホールディングス)

今年6月30日には茨城交通の路線バスを使った一風変わったツアーも開催された。ただし、いわゆる「路線バスの旅」ではない。

自宅近くのバス停から路線バスに乗り、バスを乗り継いで新鮮な野菜や果物がそろった「道の駅」やスーパーマーケットで買い物をするという内容だ。バス内には冷蔵容器が用意されて冷凍食品の買い物も支障ない。

このツアーは常陸太田市地域公共交通活性化協議会が主催し、高齢者を中心に21人が参加。同乗した茨城交通のスタッフからバスの乗り方や運賃の支払い方法などの説明を受け、道の駅やスーパーでの買い物や食事を楽しんだ。

普段バスに乗らない高齢者に「路線バスに乗ればこんなに便利だ」ということ示すことが狙いだ。どの業界でも「商品を試用させ、気に入ったら使ってもらう」というマーケティング戦略は当たり前のように行われているが、バス業界ではこうした試みを躊躇する会社もある。

「確かに当たり前の取り組みだが、要はやるかやらないかの違い」と、みちのりHDの松本順社長は言い切る。貨客混載バスといい、「言われてみれば当たり前だけど誰もやっていなかった」ことをやる力がみちのりHDにはあるようだ。

産業再生機構がルーツ

では、みちのりHDとは、いったい、どのような会社なのか。

みちのりHD の設立は2009年3月だが、同社のルーツは2003年に発足した産業再生機構にある。同機構は政府の肝いりで設立され、カネボウをはじめ、さまざまな企業の事業再生を支援してきた。

茨城交通の乗務員(写真:みちのりホールディングス)

産業再生機構は2007年に役目を終え清算されたが、同機構の業務執行最高責任者(COO)を務めていた冨山和彦氏は、同年にコンサルティング会社・経営共創基盤(IGPI)を設立。そしてIGPIは2009年3月にみちのりHDを100%子会社として設立した。

産業再生機構は九州産業交通(熊本県)、宮崎交通(宮崎県)、関東自動車といったバス会社などの経営再建も行っていた。みちのりHDの松本社長も産業再生機構出身であり、九州産業交通の再生に携わってきた。

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