生配信のギフティングに熱狂する人達の心理 前田裕二社長「現代で完成品はいらない」

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エンゲージメントがいちばん高いのは、オーディエンスから「この人なら」という信頼を獲得している、本当に好きなものしか紹介しないという人。漠然と1万人にリーチをかけるより、100人にエンゲージメントさせられる人たちに、100人分の広告予算を投下して1万人に情報を届けたほうが確実であるということになるでしょう。

SHOWROOMのようなエンゲージメントを強みにするメディアが台頭していけば、広告を出稿する側の企業もいずれ、「認知と人気」の違いに気づき、さらには、「フォロワー数よりもエンゲージメント」というふうに、本質理解の階段を上っていくであろうという仮説を持っています。

おそらく、まだ広告市場全体の潮流はそこには至っていなくて、「幅 × 広告」がメインかなと思いますが、向こう2~3年で「幅 × 広告」から「深さ × 広告」へ、という認識が急速に広まるはずなので、少しずつ広告の形も変容していくかもしれませんね。

そのためにもわれわれは、来る「深さ × 広告」の時代に向けて今できることとして、「深さ × 課金」をベース戦略に、ユーザー一人ひとりのエンゲージメントをじっくり育てていこうと思っています。

テレビに取って代わる日は来るか

――SHOWROOMは、今のところオーディエンスから演者への「ギフティング」が主な収益源ですが、先々はテレビをリプレースする存在を目指しますか。

前田裕二(まえだ ゆうじ)/ SHOWROOM社長。1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、外資系投資銀行に入社。2013年5月にDeNA入社。同年11月に「SHOWROOM」を立ち上げ。2015年8月にスピンオフでSHOWROOM株式会社設立。同月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け合弁会社化。著書に『人生の勝算』(記者撮影)

日本では、テレビの影響力はまだまだ強いので、拡声器としてリーチを広げる役割は今後も続くでしょう。逆に、SHOWROOMは広く拡散させることは苦手ですが、エンゲージメントが高いメディアとして売り数など実数値面で結果を出すことは得意です。テレビとは競合するものでもなく、共存してレベニューシェアするという形が考えられると思います。

今は広告というと、広く認知を取りに行く「幅」の面がまだまだ大きいですが、今後は「幅と深さ」の両軸で完結する広告パッケージというものが出てくると思います。ただ、「認知より人気」が大切で、フォロワー数よりエンゲージメントが重要だという認識が完全に定着するには、もう少し時間がかかるでしょう。

SHOWROOMは、今のところBtoBのビジネスをいっさいやらずにここまで到達しています。秋元康さんは「世の中の一歩先をやるとヒットしない。半歩先を狙え」といつもおっしゃっています。「エンゲージメントに価値がある」という命題がしっかりと市民権を得ていない今、僕らがB向けに営業したとしても、きっとその価値を理解していただくことにはハードルを感じるはず。つまり、「一歩」先なんです。世の中が本格的に気づくまでは、今までどおり消費者向けのサービスとして全力をあげていくことが、正しいと考えています。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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