ヲタクの楽園「ニコ動」に立ちはだかる壁--収益化に苦しむ超人気動画共有サイト

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成功のキーワードは「ユーザー主権」

ユーザーに主体的に盛り上げてもらうサイト構築のため、開発運営側もコメント以外のアイデアに心を砕く。その一つが、動画のカテゴリーを分類するためのキーワード「タグ」の編集機能だ。他の動画共有サイトではタグは動画投稿者しか設定できないが、ニコニコ動画ではユーザーが自由にタグを改変できる。ニコニコ動画の開発者で、ドワンゴ研究開発部の戀塚昭彦氏は、「ユーザーがシステムの生成にまで関与しているような感覚を与える効果がある。自分のつけた面白いタグが定着すると、ある種の達成感すら感じることができる」とその狙いを話す。

また、ユーザーとの交流を活発にするために、開発運営側も積極的に自らの素顔を公開している。たとえば戀塚氏は、SNSサイト「Twitter(ツイッター)」で身分を明かして、頻繁にユーザーと会話している。「距離を縮めることはユーザーの満足度を高めるとともに、私たちにとっても誠実で信頼性の高い意見を吸い上げるチャンス」(同氏)だからだ。ニコニコ動画関連のブログを運営する管理人は、「僕がWeb上で指摘した問題点が次の日には直っていることがよくある。サービスの巨大さの割に対応が速い」と感嘆の声を上げる。

動画共有サイト最大手のYouTubeも7月末、動画にコメントを付けられるサービスに本腰を入れることを明らかにした。情報の作り手と受け手とが渾然一体となったニコニコ動画スタイルは、確実に普及しつつある。

母体のドワンゴにとっても、ニコニコ動画は今や社運を懸けた大事業だ。開始当初は、いくつか進めていた新規事業プロジェクトの一つにすぎず、事業モデルもYouTubeの投稿動画を利用してコメントを付けるという単純なものだった。しかし、アクセス急上昇でたちまちYouTubeから接続を遮断され、自前でサーバーを用意し本格的な投資に乗り出すことになった。ドワンゴがこれまで投資した額は約30億円に上る。小林宏ドワンゴ社長は「携帯コンテンツなど既存事業で稼いだ利益のすべてをニコニコにつぎ込んでいる状態」と苦笑する。


 だが、収益化の兆しが見えない。月間収支はむしろ刻々と悪化しているのだ。サイトが巨大化してコストが膨らむ一方で、売上高、特に広告収入が伴っていない(右図)。たとえば営業利益率40%と強固な収益力を持つミクシィと比較すると、アクセス数では2倍の開きだが、広告収入に至っては6倍もの開きになる。

ドワンゴでは、08年9月までにニコニコ動画の単月黒字化を目標としていたが、「柱の一つであった有料会員収入も頭打ちになってきた。目標は未達成に終わりそうだ」(小林社長)という。

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