木村屋の「クリームパン」が売れている必然 袋パンで「食品添加物不使用」に挑んだ

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一方、安定した製品を効率よく作る改善も進めた。具体的には、パンを作るうえでの基準や手順を決めて効率化する、商品設計のタイミングでの利益管理を始めたのである。たとえば、クリームパン用の天板は、丸いくぼみを付けて1枚当たり5個ずつ3列で15個のパンを焼く形に統一。以前は、1つの天板に無理やり詰め込んでいたため、食味や風味のバラツキ、ロスが多く出ていたが、工程を見直した結果、成形過程でのロス率も半減した。

クリームパンでは、1つの天板で15個焼けるように徹底した結果、製造工程での商品ロスが減った(撮影:尾形文繁)

膨張し続けていた商品アイテム数も絞り込んだ。木村屋ではそれまで30~40年間、毎月20種類もの新商品を売り出し続けてきた結果、ピーク時にはアイテム数が2680にまで膨張。そこで、食パンを思い切って3年前に製造を取りやめるなどして、4年かけて1358にまで絞り込む。開発点数も1カ月3品まで減らし、一つひとつの商品を丁寧に育てる方向へ転換した。

取引先数も大幅に減らした

取引先の数も思い切って見直した。「毎日の受注量が、納品する前日の朝にならなければわからない」(福永副社長)スーパーは珍しくない。しかも、チラシを打つ日は大量注文し、そうでない日は注文しないなど、バラツキが大きいところもある。そこで、受注量の増減が激しいところから撤退するなどして、2013年時点で136あった取引チェーン数を4年かけて76にまで絞り込んだ。

構造改革を進めた結果、スーパー・コンビニ向け事業は2年前から黒字化した。同時に社内にも変化が起き始め、2013年時点でゼロだった女性の管理職が、2017年3月時点で正社員290人中6人にまで増加。残業時間も大幅に減った。

木村屋が取り組んだのは、結局、事業の近代化といえる。製造現場でも営業面でも無駄をなくし、「一手間かけておいしいものを作る」という原点に戻ったことで、利益率が高い商品誕生に至ったのである。そのパンはヘルシーでおいしく、ヒット商品になった。

その過程に大きなドラマがあるわけではない。シンプルパンを作るために、設備投資を行ったわけでもない。大量生産品から食品添加物をすべて排除するといった、理想を高く掲げたわけでもない。外からの視点を取り込み、慣行に押しやられていた「当たり前」を取り戻しただけだ。それは、もしかすると、どの現場でもできることなのかもしれない。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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