工具の老舗「OSG」が乗り出す宇宙への挑戦 ベンチャーとの出会いから新ビジネスを開拓

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部品の材料はアルミや鉄だけではない。昨今航空機によく使われるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)やチタンになると切削が難しく、ダイヤモンドなどの超硬素材をコーティングした高性能な工具が使われる。工具を回転させるスピードなどの加工条件の設定にもノウハウが求められる。

フランジリングの加工風景。重量や形状に正確性が求められるため、細かなチェックが必要だ(写真:OSG)

航空宇宙は今、OSGが全社を挙げてシェア拡大をもくろむ分野だ。米ボーイングや欧州エアバスといった航空機メーカーとサプライヤーへの拡販を図っている。米国や欧州で販売網を持つ現地の工具メーカーや販売代理店の買収にも積極的だ。直近2016年11月期は売上高1055億円のうち、1割前後が航空機向けだった。

「自動車の電動化」が宇宙へと駆り立てる

業界でのプレゼンスを高めるべく出展していた、2年前のパリ航空ショー。ここでOSGの大沢常務は、アストロスケールの岡田CEOと出会う。「一番印象に残った話が、宇宙産業は航空産業の50年遅れで動いているということだった。モノづくりの業界は今、大きな変革期だ。当たり前だったものがなくなり、今までなかったものが生まれる。それがまさに宇宙の世界」と、大沢常務は将来への期待を込める。

「当たり前だったもの」とは、OSGにとって自動車のガソリンエンジンだ。電気自動車(EV)の普及が進めば、エンジンなどのパワートレインはいらなくなり、金属の切削加工も減る。そうなると「今使われている切削工具のうち半分は不要になる」(OSGの石川則男社長)。

一方でアストロスケールとの協業は、実際のビジネスでも効果が出始めている。「これまで宇宙関連の商売は始めたくてもきっかけをつかめなかった。だが衛星へのスポンサーシップをきっかけに、いろいろな展示会で話ができるようになった」(大沢常務)。実際に宇宙関連企業との取引も一部始まっているという。

「今から20年ほど経ったとき、OSGは宇宙で何をやっているか」。アストロスケールの岡田CEOからそう問われた大沢常務は、「月面とかでモノづくりしてみたいですよね」と語った。「重力のあるところから少ないところへ移ったときに、モノづくりがどう変わるか。その変化がチャンスなのかもしれない」。

小さな工具を作る老舗は、宇宙の世界に大きな夢を馳せている。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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