福岡・岩田屋三越が今こそ「農業」に挑むワケ 「福岡三越」屋上にミツバチ15万匹の養蜂場

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プロジェクト責任者のバイヤー石松瑞樹さん(41)は、苗に巻き尺を当て、つぶやいた。「すごい。前回20センチ足らずだったけど、もう60センチに伸びた。丁寧に手入れすれば必ずおいしいコメができる。収穫が楽しみ」

商品の価値を正しく発信するために

巻き尺を取り出し、苗の丈を測る石松瑞樹さん。「すごい。もう60センチまで育ってる!」

養蜂は、1997年10月の福岡三越開店から20周年を迎えるに当たっての記念事業。コメ作りは昨年の岩田屋本店開業80年も踏まえ、2017年の新しい試みとして企画した。

農業を記念事業に選んだのは、ネットの電子商取引(EC)、とりわけ小売市場で台頭するネット通販への警戒感が見え隠れする。

経済産業省の「2016年電子商取引に関する市場調査」によると、消費者向けEC市場の規模は前年比9・9%増の15兆1358億円。物販に限ると8兆円余で、前年を10・4%上回った。ECの浸透度合いを示すEC化率は5・43%。EC化率は米国で約7%、中国で15%超あり、経産省は「日本ではまだ飽和状態に至っていない」とみる。

「大浦の棚田」で収穫されたコメは9月上旬、岩田屋本店(写真)と福岡三越で販売される

岩田屋三越のあるバイヤーは「百貨店は“ショールーム”化している」と嘆く。百貨店で気になる商品をチェックし、より安いサイトを探して買うという消費者の行動が進んでいるというのだ。

スマートフォンが普及する中、消費者の情報収集力は格段にアップ。「だからこそ百貨店は原点に返り、商品の価値を正しく発信する時だ。なぜおいしいコメや蜂蜜が出来るのか。商品の生産や製造のプロセスを含むストーリーを伝えたい」。そのために、自らが「生産者」となる農業体験は貴重なのだという。

岩田屋の社是は「誠実奉仕」「良品正価」。三越は江戸時代の1673年、伊勢商人の三井高利が江戸に開業した呉服店「越後屋」がルーツ。世界で初めて「正札販売」を実施した店だ。つまり良いモノを誠実に堂々と販売する源流がある。

「百貨店×農業」は何を生み出すのか。都市の緑化推進、後継者不足にあえぐ農村の支援―。「地域貢献」も掲げつつ、新戦略で目指すのは「より深みのある接客」(広報担当)。それはモノの価値を正しく、熱く語り、百貨店の存在感をあらためて強調する「モノ語り」なのかもしれない。

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