英国地下鉄、日本と違う「痴漢冤罪」への対応 いきなり警察に引き渡すことはしない

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日本ほどではないが、ロンドンの朝ラッシュ時もそれなりに混雑する。ターミナル駅に到着すると、大量の通勤客がホームに流れ出す(筆者撮影)

日本ほどではないが、ロンドンもピーク時の混雑はかなり激しく、自分の体や、持っているカバンが他人に触れることは避けられない。筆者も、カバンが当たったことで女性からにらまれたり、わざとらしく振り返られたりした経験がある。やましいことを何もしていなくても、あまり気分が良いことではないが、幸いなことに立錐の余地もないほど混雑しているわけではないため、空いている場所を見つけて移動し、そこへ立つようにしている。

痴漢というと体を触るなどの行為をイメージするが、TfLではいわゆる一般的な痴漢行為のみならず、体を擦りつける行為や、いやらしい視線で相手を見つめる行為、また性的な発言をすることなども含めるとしている。多くは、明らかに痴漢行為とみなしてよいものばかりだが、視線については、たまたま目があったとか、偶然視線の先に相手がいた……なども考えられ、また「いやらしい視線で見る」という定義もいまいちあいまいだ。それこそ、自意識過剰な人や、たまたま気分が不愉快だったからといって通報されたらたまったものではない。

ロンドンには専門チームが

そうなると、やはり冤罪も少なからず発生する。日本の場合、疑いをかけられた側の立場が弱く、痴漢トラブルに巻き込まれたら、それが事実かどうかをきちんと特定する以前に拘束されるおそれがある。その状況までいくと、痴漢の前科者というレッテルが付いて回り、家族関係や仕事関係など、その人の人生を根底から左右しかねない状況へと至り、法的な制裁より前に、社会的な制裁が待ち受けているということになる。

中にはこうした状況を逆手に取り、痴漢に遭ったと主張して、慰謝料を要求する事件が発生したこともあり、捜査のあり方に課題を残している。痴漢行為は決して許されることではないが、もし冤罪で人生を棒に振ったとしたら、絶望という言葉以外見つからない。

TfLでは、こうしたトラブルの通報を受けた際、加害者として被害者から訴えられた人をいきなり拘束したりすることはせず、もちろん警察へ引き渡したり、家族や会社へ連絡したりすることもない。

特別に訓練された専門チームが、まず被害者から証言をきちんと聞き出し、駅構内や電車内に設置された膨大な数のCCTVカメラからの情報を解析、もしいれば証人の意見なども参考にして、原因の究明や犯人の特定を進めている。

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