「銀魂」が映す偉人のフリー素材化という潮流 エンタメ界は知名度と暗黙知に目をつけた

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そのような時代において、ユーザーに興味を持ってもらうために編み出された方法こそ、「ユーザーが知っている人・もの・ことをベースにした作品」、つまり「偉人のフリー素材化作品」なのである。

情報が多くなればなるほど、人は「自分が知っていること」「知名度があること」「ブランドが評価されていること」を判断基準にするようになる。マリオシリーズのようなブランドとして確立している作品、ドラゴンボールなど過去に大ヒットした作品の続編であれば簡単に条件を満たせるが、誰でも実現できるわけではない。

そこで「偉人の知名度」だ。織田信長や坂本龍馬といった歴史上の人物は、歴史を学んだことがある人なら名前と功績ぐらいは知っている。この前提はユーザーに安心感を与え、手に取るハードルを下げることができる。

ただ、作品の内容まで歴史に沿ってしまうと、今度はターゲットが歴史好きに限られてしまうため、「偉人の知名度を生かしつつ、歴史とまったく異なるストーリーを展開する」という戦術が採られている。エンタメにとって最も重要かつ難関である「存在を知ってもらう」という点において、偉人の知名度は使い勝手が良い。

「偉人のフリー素材化」は利害が一致した戦術

もうひとつ重要なのが「制作側とユーザー側で暗黙の了解ができる」という点だ。制作側は設定、魅力を作りやすい。歴史、功績、過去の言動といった土台があるため、ゼロから設定を作るよりも労力が少なくて済む。

省エネできるのはユーザー側も同じだ。偉人のイメージがすでにインプットされているため、キャラクターが理解しやすい。また、史実の再現ではないと最初からわかっているため、自分のイメージと異なっていたとしても違いを楽しめる。つまり、「偉人のフリー素材化」は制作側とユーザー側の利害が一致した戦術なのだ。

『銀魂』のケースでいえば、作品に登場する偉人は江戸時代末期、日本の激動期に活躍した人物たちが多く、読者は彼らの生き様、功績を「歴史知識として」知っている。つまり、「偉人を元ネタにしていること」で、行動に説得力が生まれるのだ。このため、読者は自然な形で「コミカルなアレンジ」と「偉人らしい信念」の両方を楽しむことができる。

さらに言えば、「偉人のフリー素材化」によって制作側は「ユーザーに何を期待されているか」をくみ取りやすく、ユーザーは「制作側に何を期待したらいいか」わかりやすい。たとえば、非業の死を遂げた武将を元ネタにすれば、ユーザーは当然、悲劇の事件のアレンジを期待する。制作側は期待されていることがわかっているので、ハズレのないエピソードを作ることができる。

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