海外鉄道マン、「忘れ物回収」で日本流目指す 山手線で紛失した旅券が無事発見され大感激

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この男性社員はインドネシアへの帰国後、日本での経験を基に、KCJの車内や駅構内の忘れ物を利用客に返すための仕組みを改善した。KCJの主要駅には、乗降客の多い駅から順次「Lost and Found」と記載された遺失物カウンターを設置、利用客の利便性向上に努めている。日本での拾得物捜索のノウハウに感銘を受けたことが原動力となったことは言うまでもない。

ターミナル駅ジャカルタコタの忘れ物対応カウンター(写真:Omat Boncehさん提供)

一方、車内での忘れ物に気がついた利用客からの届け出はどう行われるのだろうか。日本では、とりあえず近くの駅に事情を話して、その後忘れ物が発見されれば主要駅の遺失物センターなどに取りに行き、駅員が紛失時の状況や紛失物の内容について確認し、問題なければ返還するという格好となる。KCJでは日本のスタイルをほぼ踏襲している。

ただ、KCJでは日本の鉄道事業者より一歩先を行く対応を目指している。利用客がもし車内や駅などに忘れ物をした際、スマホのアプリを通じ、捜索を依頼できるようにするべく開発を進めているのだ。スタッフはアプリ経由で報告を受けたら、駅などに連絡して忘れ物の回収に努めるという。

弁当の食べ残しも届け出る熱心ぶり

1日の利用客数が今年になってついに100万人の大台に達したKCJでは、74に及ぶ全駅に計500台の監視カメラを設置。忘れ物だけでなく、不審物が置かれたりしていないか常時モニターを行っている。カメラを通じて忘れ物らしい物品が発見されたら、コントロールセンターと各駅の駅員とつながっている無線を使って対応を呼びかけるという。

KCJの列車には、車内の秩序を守るため「PKD」と呼ばれる警備員が1編成に数名ずつ乗務している。忘れ物の多くはPKDが走行中や終点での折り返しの際に回収しているという。

ところでジャカルタの電車はわずか数年前まで、人が屋根に乗るような「異常な交通機関」だった。しかし、この2~3年で日本から中古車両が大量に導入され、列車本数が増えた結果、利用客らは快適に移動できるようになっている。そんな背景もあって、かつては高圧的な治安管理員という雰囲気だったPKDたちは、「車内や駅などでのお困りごとに対応するサービススタッフ」という役割に変貌しつつある。

KCJでの忘れ物回収のスキームがより積極的に行われるようになったこの春以降、PKDたちによる車内の見回りがより強化されている。中には、ゴミなのか忘れ物なのか区別がつかない「お弁当の食べ残し」を、職務に燃えるPKDが拾得物として駅に持ち込んだというエピソードも聞かれる。

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