テレ東「池の水ぜんぶ抜く」が大ウケする理由 予算で劣る分、人気タレントには頼らない

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これは、芸能人が一般人の家に出向き、引っ越し業者の協力を得て家の中にあるものをいったんすべて出して、いるものといらないものを仕分けして、家を整理するという企画である。池の水を全部抜いてしまうというのと発想は似通っているところもある。テレ東ではなぜこんな画期的な企画が次々と実現できるのだろうか。

限られた予算では「企画力」で勝負するしかない

テレビ東京は1964年に始まった。民放の中では最後発で、ネット局も少なく、その経営基盤は脆弱なものだった。ほかの民放と比べて制作費は10分の1程度しかないといわれる。予算が限られているということは、タレントをあまり使えないということだ。出ているだけで視聴者が思わず釘付けになるような人気タレントを起用するためには、膨大な額の出演料がかかる。テレ東には予算がないため、人気タレントを多数起用するような番組作りをすることが難しかった。

そこで、テレ東では伝統的に「企画力」で勝負する番組作りが行われてきた。たとえ有名なタレントが出ていなくても、企画の面白さだけで視聴者がひきつけられるような番組を目指すことにしたのだ。「朝まで生テレビ!」の司会者として知られるジャーナリストの田原総一朗も、かつてはテレビ東京(当時は東京12チャンネル)のディレクターだった。田原は「学生運動真っただ中の早稲田大学の講堂で、ジャズピアニストの山下洋輔に命懸けでピアノ演奏をさせる」「列席者全員が全裸で結婚式をする」など、常識外れの型破りなドキュメンタリー番組を数多く手掛けてきた。

そんなテレ東が新たに掘り当てた大きな鉱脈の1つが「一般人(素人)を起用する」ということだ。素人ならば、芸能人のような高額のギャラは必要ない。面白い企画とそれに合った人材さえ見つかれば番組が成立する。テレ東の歴史に残る素人番組といえば、1992~2006年放送の「TVチャンピオン」である。1つのジャンルに精通した圧倒的な知識の持ち主や、特別な技能を持っている人たちが、1番を目指して争うという企画だ。中でも、「大食い選手権」は評判を呼び、他局でも大食い番組が多数作られるようになり、日本中に「大食いブーム」を巻き起こした。

素人の面白さを引き出す番組作りは、その後もテレ東の伝統になっている。「田舎に泊まろう!」「YOUは何しに日本へ?」「家、ついて行ってイイですか?」などはその流れを引き継いだ番組の代表格である。この手の番組では、面白い素材に巡り会うまで、ディレクター陣はひたすら地道に取材を続ける。作り手が汗をかいてネタを探し続けることで、テレ東の素人番組のクオリティが保たれているのだ。

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