究極の自民党路線を明確にした福田新体制は「動かなくなった古時計」!?

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究極の自民党路線を明確にした福田新体制は「動かなくなった古時計」!?

塩田潮

 自民党は種々雑多な考え方や路線を抱え込む包括政党で、そこが強みといわれた。国民の価値観や政治に対するニーズは多様化しているから、幅広い包括政党でなければ政権政党にはなり得ない。自民党はもちろん、民主党も包括政党を目指すのは正しい選択である。
 包括政党の自民党には「振り子の原理」という考え方がある。一つの路線とリーダーを選択した後、国民の支持がなくなれば、躊躇なく対極の路線やリーダーを採用して支持をつなぎ止める。時計の振り子のように、右に左に揺れても平気で容認する。
 今度の福田新人事は「振り子の原理」に手を染めた。

 自民党は1996年の首相奪還後、橋本内閣で改革路線、小渕内閣でばらまき路線、小泉内閣で大幅な改革路線と揺れた。安倍内閣は路線継続だが、見直しが始まった。包括政党の自民党には、上げ潮派と財政再建派、歳出削減派とばらまき派、国益重視派と協調外交派、中央集権派と分権派などが並立するが、福田改造内閣で改革棚上げ、ばらまき路線回帰に舵を切った。自民党が強かった時代は「振り子の原理」は有効だったが、現在は一大決戦の次期総選挙を控えて「改革もダメ、財政再建も無理で、最後になりふり構わずばらまき路線」という右往左往ぶりだ。

 小泉時代の5年5ヵ月、長期の緊急避難で危機をしのぎ、その後も遺産で生き延びてきたが、人材も自己変革のエネルギーも底をついたというのが実態だろう。振り子どころか、まるで「動かなくなった古時計」である。
 福田新体制は「オールド自民党」のオールキャストという究極の自民党路線を明確にした。これなら民主党も戦いやすいだろう。「これこそ民主党路線」という姿を鮮明にしてもらいたい。そうすれば一大決戦は国民にとってわかりやすい政権選択選挙となる。
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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