アウディのスーパーカー「R8」は何がスゴいか 610馬力を支配している実感を与える

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ちなみにここでは、ランボルギーニ ウラカンのボディおよび骨格も作っている。塗装済みのボディ一式とパワートレーンを毎日イタリアに送り、サンタガータで組み立てている。

2006年に登場したアウディ R8は、スーパーカー界に小さからぬ衝撃を与えた。2人しか乗れないことを除けば、極めて“実用的”なスポーツカーであり、全速度域において上質なライドフィールと、限界域における高いスポーツ性能とを見事に両立していたからだ。

R8が第2世代へと進化を遂げたのは2015年のこと。それは明らかに“キープコンセプトのモデルチェンジ”だったが、初代にはあったV8エンジンの用意がなく、V10のみとした点が新しい。

しかも、標準仕様が従来型+15psの540psであるのに対し、V10プラスには610psの“ウラカン”スペックV10が積み込まれた。それゆえ、V10プラスのパフォーマンス・スペック(最高速や加速)もまた、ウラカンと全く同等。もっとも、お値段の方も性能アップに乗じて格段に跳ね上がり、それもまたウラカン同等となったのだが……。

キープコンセプトで進化したR8には、2つの方向の進化が期待された。ひとつは、言うまでもなくスポーツ性能。そして、もうひとつがいっそう快適なクルマになること、だ。

新型R8プラス(610ps仕様)を京都へ連れて帰るに際して、そのことを主に確かめてみようと思ったのだが、果たしてそれらは想像を超えたレベルで現実となっていた。

まるでA8のような振る舞い

都内のホテルでキーを受け取り、首都高に向けて走り出していきなり、尋常ならざるスムーズな動きに驚愕してしまった。マシンを構成するすべての要素がドライバーの指示に対して、一糸乱れず忠実に動いてくれている感覚、とでも言おうか。「さぁ走るぞ!」というドライバーの気持ちがそのままマシンに乗り移ったかのように、まるでストレスなく走り出した。

たんに軽さを感じるだけじゃない。ハンドルの切りはじめや、車輪の動きだし直後などの微小領域から、動きに精緻さがある。とてもじゃないけれども、オーバー600馬力のマルチシリンダーエンジンを背後に積んでいるとは思えない。首都高に入り速度を上げても、その精密な走りに何ら変化はない。むしろ感嘆は増す一方だった。

東名に入り、流れにのってクルージング。鼻歌まじりに先行車両をパスしながら、マイペースで走る。広々とした視界が嬉しい。もはやミドシップ・スーパーカーという気分ではなく、アウディのサルーンに乗っているかのような気分。それがいいかどうかは別にして。

速度計と流れる景色を見ていれば、その圧倒的なパフォーマンスを頭で理解することはできるだろう。けれども、そこにハラハラやドキドキといった、スーパーカー流の“おもてなし”などまるでない。どこまでも、まるでA8のように落ち着いている。

R8がそうした味付けになっているのは、実は世界でも屈指の“いい加減さ”を誇るドイツ人気質(だからこそ、ルールに厳しい)ゆえ、最後の最後までクルマ側でコントロールしておきたい、ということの現れなのかもしれない。だから、クルマからむやみに気持ちを煽ってくるということがない。あくまでも淡々とドライブをこなす。路面の継ぎ目を“タンタタンタン”と心地よくこなして走るのだ。

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