中国「蓄電池特急」は日本よりも高性能なのか 時速160kmで距離200kmを走れると豪語

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中国には、「自然保護区」や「風景観光区」といった日本でいう国立公園に当たるエリアが随所に設けられている。名前のとおり、これらのエリアでは過度な開発はできないことになっており、鉄道敷設や輸送力の強化についても一定の配慮が必要とされる。CRRCは「このようなエリアを電化し、架線を張った場合、景観が損なわれるだけでなく、生態系が変化してしまうこともありうる」と蓄電池電車の開発の意義を強調する。

7月上旬に始まった蓄電池電車の走行テストは、内蒙古自治区の線路を使って行われる。この地域は、夏になると遊牧民が暮らす草原を見に行く観光客が多く訪れるが、その一方で著しい砂漠化が進んでもいる。日本で目にする黄砂はこの辺りから飛来してくるものだ。つまり、景観を楽しむ地域でありながら、厳しい自然環境にもさらされる。そういった背景もあり、蓄電池電車のテスト実施場所として、いわばうってつけの条件がそろっているといえるだろう。

今回発表された、内蒙古自治区での蓄電池電車のテストに関し、中国側は走行距離やその区間、予定される走行速度などの詳細は明らかにしていない。また、バッテリーの容量や大きさなどが気になるところだが、具体的に示されていないのが残念だ。

英国では実証実験を実施したが…

蓄電池電車をめぐっては、英国でも2015年に実証実験が行われたことがある。ロンドンと東郊外のエセックス州をつなぐ路線を運営しているグレートアングリアは、主力車両の「クラス379」の編成にリチウムイオン電池を搭載。実際に旅客を乗せ営業運転も行った。

当時の新聞記事を読むと、「ディーゼル車の騒音や排気ガスの匂いから逃れられる画期的な技術」ともてはやされたが、その後導入が広がったという話は聞かない。プロジェクトはひっそりと消えていったようだ。

なぜだろうか。非電化路線用に広く使われているディーゼル車の運行コストと比べ、バッテリーのコストが高いことが挙げられる。それに加え、バッテリーの自重が重いという欠点もある。実証実験で使われた編成は、無充電で100km弱は走れるとされるが、それ以上の距離を走ろうとすると、運行中に途中駅で充電する必要が出てくる。

英国で実証実験に使われた「クラス379」の蓄電池電車バージョン。床下にリチウムイ オン電池のモジュールを積んでいる(Courtesy of Network Rail)

英国で非電化路線に直通する優等列車としては、老朽化した長距離列車の車両を更新する「IEP(都市間高速鉄道計画)」の一環として、ロンドンから西に延びるグレート・ウェスタン・レールウェイに日立製作所が生産するバイモード車両「クラス800」が今年中にも導入される運びだ。これは、電化区間は電車として走る一方、非電化区間ではディーゼル発電機を回して電気を起こし、それでモーターを動かして走るという仕組みとなっている。

CRRCによる蓄電池電車のテスト開始を伝えた中国のメディアは、「同様の技術を使った日本の蓄電池電車をライバル視」という言葉を使って、自国の車両の優位性を説く伝え方をしている。中国側は、「一帯一路」沿いの国々への輸出も念頭に入れているようだ。「鉄道の電化が進んでおらず、電力事情が良くない国が多い中、「鉄道輸送の改善に向け、蓄電池電車の貢献度は大きい」との見方を示している。

額面どおり受け取れば、バッテリーモードで東京―静岡間を超える距離を時速160kmで走行することになる。それに対し、JR東日本の蓄電池電車「ACCUM(アキュム)」がバッテリーモードで運行するのは烏山線・宝積寺―烏山間の20.4kmにすぎない。速度も一般的なローカル線程度だ。日本よりもはるかに広い国土面積を持つ中国国内を蓄電池電車が猛スピードで走る日がやって来るのだろうか。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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