日本株の「今年の天井」はいったい何月なのか 米経済悲観論は過剰でも2つのリスクに注意

拡大
縮小

このように、筆者は「種々の米経済に対する悲観論は行き過ぎだ」、と考えるわけだが、米国の経済や株式市場、米ドル相場について、リスクは高いと懸念している。

米国に「政策」「長期金利上昇」という2つのリスク

まず、政策リスクだ。米国では、予算については、予算案の策定もその審議も、議会だけに権限がある。夏休み休暇後、議会予算局が予算案を策定し、減税やインフラ投資について、具体的な金額が見えてくるだろう。議会共和党は財政赤字の拡大に対して否定的なので、法人減税・所得減税の額そのものが、「トランプ案」(その案自体が具体性を既に欠いているが)に比べて、縮小される可能性が高い。あるいは、減税を相殺する、新しい増税が盛り込まれるということも十分にありうる。またインフラ投資は、議会共和党の「小さな政府」志向と真逆なので、かなり削られることになるだろう。

こうした景気刺激策が全くなかろうと、米国景気は拡大基調にあるので、長期的に懸念するには当たるまいが、米国株価や米ドル相場が、予算案が具体化する今秋から年末辺りにかけて、失望から下振れする恐れは強い。またそうした市場の下振れや、家計・企業の心理の慎重化が、実体経済についても、長期拡大の中での中期下押しを生じてしまう展開もあるだろう。

もう一つのリスクは、長期金利の急上昇だ。述べたように、米連銀の金融政策自体は慎重で懸念するに至らないが、長期金利は市場で決まる。投資家の金利観が上昇一色にぶれると、急速に長期金利が跳ねあがって、長期の住宅ローン金利もツレ高し、景気に対する懸念が広がることがありうるだろう。

この場合、金利上昇→景気悪化懸念およびそれによる米株価下落、という色彩が濃くなるので、米ドル相場も、日米金利差拡大を評価して米ドル高・円安になるというより、米景気への懸念や米株価下落を受けて、米ドル安・円高に振れることが想定される。

とは言っても、長期金利の跳ね上がりがそうした混乱を招けば、それが回り回って長期金利を最終的に抑制するだろうから、このリスクも、短期的な波乱を引き起こしたとしても、長い流れで米国経済や市場が悪化し続ける展開にはなりにくい。

以上、米国経済・市場に対する長期的な見解と、中期的なリスクを述べたが、世界の株式市場は世界的な景気回復などを評価し、日本株も含めて、まだ夏場にかけては上昇余地を残しているだろう。特に国内の株価には企業収益と比べた割高感は薄く、日経平均株価は7~9月のどこかで、2万1000円を超えると予想している。しかしそこが、今年のピークだろう。前述のような米国発のリスクにより、年末年始に再度2万円を深く割れるのではないだろうか。その後の2018年は、株価は上昇基調に復帰しそうだ。

そうしたなか、今週の日経平均株価は、2万円の値固めから緩やかに上値をうかがいそうだ。具体的なレンジとしては、1万9950~2万0300円を予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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