泥沼の米金融危機、血税投入でも不透明な米住宅公社と大手銀行の命運

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しかも、ここへきて、大手銀行には追い打ちをかける事態が持ち上がっている。前述のFAS140号だ。SIVなど簿外で運用されていた特別目的会社(SPE)について、米国の会計基準設定機関であるFASBが、連結対象基準を見直す方針を打ち出したことだ。「新基準は定性基準が中心になる模様で、会計士の判断となるが、SPEが最も多い金融機関では1兆ドルを上回り、連結対象資産の拡大が懸念されている」(モルガン・スタンレー証券の大橋英敏債券調査部長)。

会計上の問題なので、ただちに、銀行監督上の規制であるバーゼル�の自己資本比率においてリスク資産に反映され、資本を積むことが求められるわけではない。が、市場は当然、先取りし、資本不足を指摘する。

欧米金融機関の資本不足を補ってきたSWF(政府系ファンド)の出方にも不透明感が漂ってきた。これまでは、中東諸国や中国、シンガポールなどのSWFが400億ドル以上の資本を提供してきた。とはいえ、時間の経過とともに既存の投資案件で損が出ており、メリルリンチは契約により補填をした。SWFも投資に慎重にならざるをえない。

ラストリゾートは公的資金だ。税金投入に対する批判は米国では日本以上に強い。しかし、事実上、公的資金はもう使われている。

今年3月のベア・スターンズの危機では、FRBは預金取扱機関ではなく、監督下にもない投資銀行を対象に、信用リスクを伴う民間ABS、MBSなどを担保に米国債を貸すTSLF(ターム物証券貸与制度)を設け、加えて、公定歩合でのプライマリーディーラー向け連銀貸し出し制度まで導入。ベア・スターンズ救済には290億ドルの特別融資が行われた。

7月上旬には、バーナンキFRB議長は受け皿会社の枠組みを使った破綻処理制度に言及した。「納税者の同意を得ずに中央銀行に資金を出させておくのは、モラルハザードの懸念がある。そのため、ベア・スターンズを上回る資金供給策が必要な場合に備え、受け皿会社を使って、政府保証をつけたうえで、FRBが資金を貸す制度への移行を望んでいるのだろう」(東短リサーチ・加藤出取締役チーフエコノミスト)。

FDIC(連邦預金公社)によれば、今年3月末時点で資本や流動性に問題のある銀行は8500の商業銀行・貯蓄銀行のうち90行ある。が、この数字は極めて保守的。毎年数百行が潰れた90年代初頭のS&L危機とは状況が異なるが、今後も銀行破綻の急増には一段と警戒する必要があるだろう。

不良債権問題は公的資金を入れれば解決するわけではない。ピムコ・ジャパンの小関広洋クレジット・リサーチ部長は「日本において損失の評価を先送りしながら行った98、99年の資本注入が問題を解決しなかったのは重要な教訓。03年のりそな国有化のときのように、資産をきちんと時価評価することとパッケージで救済するのでなければ効果がない。資本を注入しても、再びロスが出れば、繰り返しになる」と指摘する。

証券会社への中央銀行の特別融資、金融株のカラ売り規制など、まさに10年前の日本の再現だ。SPEの連結問題も、日本で不良債権飛ばしが問題となり、連結決算が本格導入されたことを想起させる。日本の失敗も含め、いかに教訓を生かせるかが問われる。

(週刊東洋経済)

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