(第4回)どうすればマネジメントの質が上がるのか

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●自分に矢印を向ける

 この「返報性」という人間の行動原理からもわかるように、私たちの周りにある環境は、実は私たちの心の中を映し出す鏡です。部下に問題があると思っているマネジャーの人達。たしかに、その問題の第一義的な原因はその問題を持っている部下でしょう。しかし、実はその問題の半分以上は、その部下の問題をどうすることも出来ないマネジャーの側にあるのです。

 考えてみてください。もし仮に私があなたの代わりにマネジャーとしてあなたの部門を率いることになったらどうなるでしょう。業績が上がるかどうかはわかりませんが、間違いなく言えることは、あなたの部門は全く違った雰囲気の部門になるということです。ですから、皆さんの部門の状態は皆さんの心を映し出した鏡なのです。
 映画『スクールウォーズ』のモデルとなった、ラグビーの山口良治監督がなぜ素晴らしいか。それは選手が軟弱なのは選手が悪いのではなく、軟弱な選手をどうにもしてあげられない自分が悪いのであると、自分に矢印を向けた人だからです。

 この自分に矢印を向けるというのは、言うのは簡単ですが実行するには大変な勇気がいります。それが素晴らしいリーダーがたくさん出てこない最大の原因でしょう。
 この人間の本質に気づいていた詩人がいます。山口県で生まれ27歳で生涯を閉じた、大正時代の童謡詩人、金子みすゞさんです。彼女の童謡集『わたしと小鳥とすずと』に掲載されている「こだまでしょうか」という詩をご紹介しましょう。
「遊ぼう」っていうと
「遊ぼう」っていう。

「ばか」っていうと
「ばか」っていう。

「もう遊ばない」っていうと
「遊ばない」っていう。

そうして、あとで
さみしくなって、

「ごめんね」っていうと
「ごめんね」っていう。

こだまでしょうか、
いいえ、だれでも。
 部下の問題を、部下に矢印を向ける気持ちで対処しようとしてもどこまでいっても状況は改善されません。その部下の問題というのは、実はその部下をマネジメントする責任がある上司自身の問題なのです。そのことに気づかなければマネジメントの問題は改善されません。
 部下の問題が実は自分自身のマネジメントの問題であることに気づき、自分を変えようとすることによってでしかマネジメントの質は上がっていかないのです。
國貞克則(くにさだ・かつのり)
1961年生まれ。東北大学工学部機械工学科卒業後、神戸製鋼所入社。
プラント設計、人事、企画などを経て、1996年米国クレアモント大学ピーター・ドラッカー経営大学院でMBA取得。2001年ボナ・ヴィータ コーポレーションを設立して独立。中小・中堅企業の社長の右腕として財務・人事・戦略分野などの本社機能をサポートすると共に大手企業の中間管理職を対象に会計・リーダーシップ・戦略論の教育を行っている。また、子供向けの竹とんぼ工作教材を販売する「竹とんぼ屋」の店主でもある。
主な著書『財務3表一体理解法』(朝日新書)、『「財務3表のつながり」で見えてくる会計の勘所』(ダイヤモンド社)、『書いてマスター!決算書ドリル』(日本経済新聞出版社)、訳書に『財務マネジメントの基本と原則』(東洋経済新報社)がある。
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