Uberが直面する創業者追放よりデカい問題 チップ支払いを始めたワケ

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なかでもチップがあるかないかは、運転手の収入に直結する問題だ。アプリにチップ支払い機能がないせいで、潜在的に数千ドルの収入を受け取り損ねていると、運転手たちは言う(現金でチップを支払うことは可能だが、そうする乗客はほとんどいない)。ニューヨーク市のウーバーの運転手が作る「独立系運転手組合」は、アプリにチップ支払い機能を加えるよう求める1万1000人以上の署名を集めた。

そこに追い打ちをかけるような動画が浮上した。ウーバーを利用したカラニックが、運転手と口論しているところをとらえた車載ビデオが、インターネットに流出したのだ。運転手はウーバーの料金体系変更を批判して、「あんたのせいでオレは破産だ」と言った。するとカラニックは、そういうふうに「なんでも人のせいにする人っているんだよな」と言い捨てた。カラニックはこの発言を謝罪する羽目に陥り、「私はリーダーとして根本的に変わり、大人にならなくてはいけない」と認めた。

ウーバーの最大のライバルであるリフトは、ウーバーと運転手の関係悪化を自社に有利に利用してきた。リフトでは2012年からアプリにチップ支払い機能があるとして、「ウーバーよりも運転手に優しい会社」を猛烈アピール。暗にウーバーの運転手の引き抜きを図ってきた。

すべては運転手との関係を改善するため

ウーバーはここ数週間ほどは、「180日チェンジ」と銘打って、運転手との関係改善に力を入れてきた。乗客を待つ時間も1分単位で加算できるようにしたり、特定の方面への乗車依頼しか引き受けないことを認めるなど、運転手たちが長年求めてきた改革が順次実行されている。ドナルド・トランプ大統領が進める入国制限の影響を受ける移民運転手をサポートするため、300万ドルの基金も創設した。

すべては運転手との関係を改善するための努力の一環だと、ウーバーのドライバープロダクト部門を率いるアーロン・シルドクラウトは言う。「ウーバーにとって、運転手は誰よりもいちばん重要なパートナーだ。これまでも事業の急成長に合わせて努力はしてきたが、運転手との関係を大切にするという点では足りない部分があった。それが変わろうとしている」。

一部の運転手の間では、「いまさら遅すぎる」とか「不十分」という声もある。だがもう一度ウーバーで頑張ってみるかと思う運転手もいるだろう。独立系運転手組合を立ち上げたジム・コニグリアロ・ジュニアは、ウーバーの改革を歓迎している。また、カラニックの退任は、「ウーバーが自分たちに利益をもたらしてくれる人たち、つまり運転手に改めて目を配る」チャンスだと言う。

それでもウーバーと運転手たちの間で衝突が起きるのは、避けられないかもしれない。経営者が誰になろうと、ウーバーはドライバーレスに向かっていくだろう。安く早くという利用者のニーズと、運転手のニーズのバランスをとらなくてはいけないのも、今後も課題として残り続ける。ウーバーは新規株式公開(IPO)を目指しているとされ、利益とコストに対する投資家の圧力も増すだろう。

カラニックの後継者には、多くの難題が残された。不祥事続きで社内のムードは悪化しているし、経営幹部の退任が相次ぎ、リーダーシップのポジションにも欠員が目立つ。だが、誰が新CEOになるのであれ、運転手との関係改善は優先順位の上位になければならない。乗客をA地点からB地点に運ぶ人たちがハッピーでなければ、ウーバー2.0はオリジナル版と同じ欠陥品のままだ。

(執筆:Kevin Roose記者、翻訳:藤原朝子)
© 2017 New York Times News Service

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