親を亡くした子どものケアをどうするべきか 家族、学校、周囲の大人にできること

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ただ、西口さんが気がかりなのは、今後病状が進んだ場合だ。もし体調が悪く、思うように動けない時に「遊ぼう」と言われたら。その先、もっと──。

「どうやって病状を伝えていけばいいんだろうと考えるんです」

子どものいるがん患者やその家族を支援するNPO「Hope Tree」代表の大沢かおりさんは、病状を含め、治療の予定などを子どもにオープンにしておくことが、親子の信頼関係を育み、子どもの安心感を生むことにつながるとアドバイスする。米国の研究では、親が病気の子ども(4~18歳)がその病状について十分に説明されなかった場合、20~25%が実際よりも悪い事態を想像してしまうという結果もあるという。

その際に子どもの年齢や発達段階に応じて、伝え方を工夫することが大切だ。

親の闘病経て成長

親が重病を患った時の子どもへの接し方(AERA 2017年7月10日号より)

就学前の幼児の場合、言葉だけで伝えるよりも絵本などを活用したほうが、理解が進みやすい。また、小学生の場合、例えば「お母さん、最近病院に行って家にいなかったよね。なぜか分かる?」といったように、子どもの理解力に応じて、一方的でなく、少しずつ伝えるのが良いという。

子どもが親の病気を受け入れきれず、ストレスを感じ、おなかが痛くなったり、学校に行きたがらなくなったり、成績が下がってしまったりといった症状が出る場合もある。そんな時のケアは学校側の理解がカギだ。体調を崩しても遠慮せずに子どもが保健室で休めるような体制を整えておければ安心だ。

親の重病は確かに子どもへの影響が大きい。だが、それは必ずしもマイナスだけではない。

闘病が始まって2年。西口さんは倖さんが変化したのを感じている。以前はわがままを言うことも多かったが、「少し大人っぽくなった」という。

毎週金曜日に西口さんは抗がん剤を投与し、治療後は、念のため生ものを食べるのを控えている。寿司が大好物の倖さんだが、ふいに「お寿司食べたいなー」と口に出してから、「あ、今度でいいけどね!」と、西口さんの体調を気遣うような言葉が出るようにも。

子どもに遠慮させているのではと、親として複雑な気持ちもある。しかし、前出の大沢さんは、親の闘病生活を通じ、子どもが我慢や忍耐、思いやりなどを学び、人間として成長するきっかけにもなると指摘する。

西口さんは、キャンサーペアレンツの取り組みを未来に残すことが、自分らしい倖さんへのギフトだと語る。たくさんの人のために力を尽くす西口さんの背中から、倖さんは日々、多くを学び取っているに違いない。

(編集部・市岡ひかり)

AERA 2017年7月10日号

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