クラブツーリズムがバス旅を高級化する狙い 飛行機、鉄道に続きバスツアーも高級路線

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クラブツーリズムが運行しているバスは1日300台ほど、年間350万人の顧客を取り扱う。「国内最大のバスツアー催行業者に当たるのではないか」(同社推計)という、知られざるバスツアーの巨人だ。

同社を支えるビジネスモデルは2つある。よく知られているのが、シニア層を主要顧客とし、会員誌『旅の友』や新聞広告でツアーを募集しするという手法だ。

この『旅の友』は首都圏版、西日本版、中部・東海版の3種類がある。別冊の「バスの旅」はさらに細分化されており、たとえば神奈川県の場合、横浜・横須賀、川崎・町田、湘南・県央と3種類もある。

こうした冊子が細分化されているのは申込の連絡先を分けるためだけではない。顧客が過去にどんなツアーに参加したかというデータを分析し、より参加が期待できそうな「テーマ旅行」を訴求しているのだ。

クラブツーリズムは通常の旅行会社のように北米や欧州を専門とする担当者もいるが、映画や音楽、歴史、登山など趣味に特化した商品開発チームを作っている。

強みは商品開発体制にあり

『旅の友』は首都圏版、中部・東海版、西日本版の3種類ある。表紙の写真やツアーの申込先などエリアによって内容を変えている(記者撮影)

旅行業界に詳しい駒沢女子大学の鮫島卓・准教授は「商品作りを深められる体制を作っていることが大きい」と指摘する。

旅行業界は参入障壁が低く、売れ筋のパックツアーなどはすぐにまねされてしまう。ネットの普及により、自分で航空券からホテルまで手配する旅行者も増えた。

同業他社もクラブツーリズムを参考に、テーマ旅行を重視した商品を販売しているが「例えば欧州地域の担当者が作る、音楽をテーマにしたツアー商品よりも、音楽に特化した担当者が『今回は欧州、次は北米』など、テーマを軸にいろんな目的を提案できる方が旅行企画を深められる。こうした担当者が好きなことをできて、それを許容する土壌があることが強みだ」(鮫島准教授)。

300万世帯、600万人とされる会員に対して、テーマ旅行を販売していくというモデルに特化したことで、単なる価格競争に走りがちな国内のバスツアーや海外パックツアーを販売するより高い収益性を確保できるようになった。

実際に、KNT-CTホールディングスの中で、個人旅行が万年赤字に沈む中、修学旅行やスポーツイベントなどを企画する団体旅行とともに、大きな稼ぎ頭になっている。

さらに、同社が「顧客との距離の近さが特徴」と自負するように、添乗員と会員でツアーの前に勉強会を開いたり、中には添乗員になった会員もいるなど、強固なコミュニティ作りに成功。こうした顧客基盤が強みとなっている。

もう1つ、同社を支えるビジネスモデルが"持たざる経営"だ。クラブツーリズムは膨大なバスツアーを催行しているが、自社では1台も保有せず、バス会社から年間で借り上げるチャーター契約を結んでいる。

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