「110番」を受ける警察官の知られざる憂鬱 「市民の安全」とはかけ離れた相談も多い

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県警に28年勤めていた私が知るだけでも、110番業務のストレスから勤務ができなくなり否応なしに異動せざるをえなくなったり、病気で休暇を余儀なくされたり、退職に追い込まれたりしたケースはごまんとある。

現在も状況はさほど変わっていないようだ。私の知るかぎり、変わったことといえば、非常勤職員と呼ばれるアルバイトがいなくなったことくらいである。あとは変わらず過酷な労働条件の中での勤務を余儀なくされていると聞く。

ほとんどが苦情やクレーム

同じ警察官からは「楽な部署でいいよな」とよく言われるようだが、当人からは「いつでも代わってやるよ」という気持ちが正直なところ。見た目と現実がこんなに違う部署はない。

何がストレスをためるのか。まず、30分単位で1日24時間の勤務割が決められている。閉塞感が半端ではない職場環境で、自由な刑事とは違って身動きができない。5時間前後ぶっ続けで受理するような状況もしばしばある。その間、受ける110番の内容は、ほとんどが苦情やクレーム。モラルに欠ける理不尽な要求とわかっていても無視することは困難で、聞いているだけでも一苦労だ。

警察本部が受理する110番通報は、1日約1800件。多いときは3000件を超えることもある。年間で約65万件にも上る。 こうした状況の中、勤務員は、24時間ほとんど寝ずの勤務を強いられることもしばしばだ。

実際の通報にはどんなものがあるのか。たとえば、救急車や消防車を呼ぶ119番と間違われることがある。これは全然かわいいほうで、「○○さんの電話番号を教えてほしい」という電話もある。「こちらは110番の緊急電話です」と答えると「そんなことは知っている。NTT(の電話番号案内の104番)はカネがかかるからそこに電話したんだ」と当たり前のように返されたケースもある。

ほかには、生活音に対する苦情の電話は多い。隣の犬の鳴き声、道路工事、花火、ヘリコプターなどさまざまだ。「自動車のバッテリーが上がってしまったから助けてほしい」「タイヤがパンクしたから交換してほしい」「自転車のチェーンが外れたので直してほしい」などという連絡もある。

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