東芝総会、株主に広がる「疲れ」と「あきらめ」 原子力の前責任者は最後まで語らなかった

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志賀氏は今年1月にあった業界団体の賀詞交換会で記者の質問に応じた以降、公に説明はしてきていない。3月の臨時株主総会にも体調不良で欠席していたが、本総会には出席していた。

S&W買収についてもっともよく知っているはずの志賀氏に説明を求める声は、株主はもちろんマスコミ、さらには従業員からも出ていただけにその回答に注目が集まった。

これも肩透かしに終わる。「志賀も含めて会社を代表して私からお詫びを申し上げます」と綱川社長が引き取り、志賀氏が席を立つことはなかった。

「何を言っても変わらない」21人目に質問に立った男性株主はあきれたように述べた後に、役員の新幹線のグリーン車、飛行機のビジネスクラス、ファーストクラスの利用状況、社有車の台数を問うた。

東芝の前途に”赤信号”が灯っている(編集部撮影)

それに対し綱川社長は「グリーン車の利用は乗車時間によります。飛行機に関しては、私の場合は、中国など近場は普通、遠い場合はビジネス。セキュリティもあり社有車を使っているが、全体では台数を減らしている」と答えた。

ここでポイントは「私の場合」だ。綱川社長がエコノミーを使うことがあるという話は取材でも何度か出てくる。しかし株主が聞きたかったのは、役員全体の利用状況であり、そこから見えてくる意識改革であろう。

ヤジすら聞こえてこない

東芝に限らず、株主総会で会社側の回答が紋切り型だったり、具体性に欠けることは珍しくはない。株主とはいえ、公に詳細な説明は控えたい部分があることも理解できる。ただ、不正会計、企業買収に伴う巨額損失で債務超過に転落、度重なる決算発表の延期など、東芝への信頼は地に落ちている。もう少し誠実に回答してもよかったはずだ。

綱川社長を含め、役員が「お詫び」を口にしたのは記者が数えられた範囲だけでも10回だった。会場からはヤジすら聞こえてこない、静かな総会だった。

この日の総会の出席者は984人だった。3月の臨時株主総会は1343人、2015年6月の総会には3178人だったことを考えれば、関心が薄れつつあるのかもしれない。開催時間は3時間09分だった。

閉会後、足早に帰路につく株主が多い中で6人に話を聞けた。

「綱川社長はまじめで人柄の良さは伝わったが、質問には答えていなかった」(60代女性)、「説明が難しいのはわかるが、普通の状況ではないのだからもう少し誠実に答えて欲しかった。志賀さんが回答しなかったのは納得がいかない」(55歳男性)、「長い割に何もなかった」(40代男性)、「紛糾もせず、平穏な総会だった」(70代男性)。

一様に疲れの色が濃く、淡々としていたのが印象的だった。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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