観光が好調な小田原、知られざる歴史と文化

「ういろう」の元祖は小田原にある

90歳を超え、心臓に持病がある先代のことを考えれば「待ったなし」の状況だったが、45歳にして迷わず薬科大学に入学し、6年の課程を無事終了し、薬剤師資格を取得することができた。

大学に通うようになってから、それまでは距離を感じていたが、週末に会うたびに「ありがとう」と手を合わせてくれるようになったという先代は、武氏の卒業を喜び、その1年後に永眠したという。

デパートやネット販売を行わない理由

八棟造りの「ういろう」本店(筆者撮影)

ういろうは、薬も菓子も、小田原での販売のみで、県外のデパートやネットでの販売は行っていない。この点について武氏は、

「拡販すれば知名度は上がりますが、たくさん作って流通ルートに乗せるということになります。そうするとお客様の顔が見えなくなる。お客様の気持ちがわからないで行う物作りは、成功しません。

また、売れ残りが出たら廃棄になるが、高価な原料を用いた往時を考えれば、それはありえないこと。あくまでも、自分たちの目の届く範囲で、手間と時間をかけて物を作るのが基本です」と語る。

近年、箱根の大涌谷の噴火や、小田原城天守閣の耐震工事の影響などで、小田原の観光客が落ち込んだ時期もあったが、ういろうの来客数は、この間も伸びていたという。

「身の丈経営を行い、自然環境、経済環境の変動の影響を受けにくい体質にすることは、長期経営の視点でとても重要です。また、観光が苦しい時期にも来客数が伸びたのは、私どもとしては当たり前と思うことを続けたのが、結果として、“小田原でしか買えないご当地土産”というブランディングになったのではないでしょうか」と言う。

なお、小田原市観光協会の副会長も務める武氏は、観光や街づくりのことも、つねに意識している。街歩きを楽しむ観光客が立ち寄れるスポットをつくろうと、店舗の奥にある蔵を改装してオープンしたのが、「外郎博物館」だ。

博物館では、外郎家に伝わるさまざまな所蔵品を公開しており、店先で見学したいと声をかければ、ういろうの社員が無料で案内に立ってくれる。この博物館には、訪れたお客様に喜んでもらうという目的のほかに、もうひとつの目的があるという。

「いい物作りをするには、お客様と接する機会をつくり、会話をさせていただくことが大切。店でのイベントや博物館の案内は、その重要な機会です。また、お客様から“いいものを見せてくれてありがとう”と感謝の意をいただけるのは、社員のモチベーションアップにもつながります」と話す。

外郎家と小田原の今後については、「地域の繁栄とともに、歴史を重ねていきたいと考えます。小田原の繁栄なくして外郎家の繁栄もありません。地域に貢献しながら、外郎家が持つ伝統文化を情報発信し、多くの人々と共有することが、未来を切り開くのではないかと考えます」と語る。

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