アマゾンのホールフーズ買収は止めるべきか 規制当局が考えていることとは?

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超党派から批判される可能性もある。左寄りの米シンクタンク、ニュー・アメリカ財団のバリー・リンはこう述べている。

アマゾンは今日、ホールフーズを137億ドルの現金で買収すると発表した。もし規制当局が承認すれば、競争的で開放されたアメリカの市場にとって大きな打撃となる。アマゾンのおかげで、既にかなり傷ついているのだが。
アマゾンは既に電子商取引の隅々まで独占している。そしてアメリカ人が売買する重要な製品の価格を支配している。今アマゾンはその価格決定力を実店舗にまで広げようとしている。
だがそれは、アメリカが抱えるアマゾン問題の一部にすぎない。アメリカの書籍や音楽などの市場でアマゾンは既に独占的な力をもし、情報やアイデアの流通についても急速に支配しつつある。
デジタル革命は本来、アメリカ人をもっと自由にしてくれるはずだった。だが、ここ20年ほどの間違った独禁政策のせいで、一握りの巨大企業に商取引と通信を再編させてしまった。
アメリカ人はもっと早い段階で、政府にアマゾンへの圧倒的な権力集中に立ち向かい、デジタル革命の潜在力をフルに実現するよう求めるべきだった。
独禁法当局は、アマゾンのホールフーズ買収を阻止するべきだ。それに加えて、アマゾンのあらゆる反競争的な行為を調査すべきだ。米議会も、競争的で開放的な市場や情報とアイデアの自由な流れを守るため、アマゾンの増大する脅威に対処する責任があると肝に銘じるべきだ。

 

アマゾンにフェイスブック、アップル、アルファベット(と傘下のグーグル)、マイクロソフトを加えた巨大IT企業「ビッグ5」を警戒する見方は、左派の人々の間でとりわけ顕著だ。彼らは莫大な富とデータを独占した巨大企業が、経済を牛耳っていると見る。

アマゾンが小売独占企業になる?

バラク・オバマ前政権下の労働省でチーフ・エコノミストを務めたベッツィ・スティーブンソンは、ツイッターにこう投稿した。「家計支出にアマゾンが占める割合が増加している。アマゾンは、アメリカの小売独占業者になる戦略を成功させるかもしれない」

米ニュースサイトのアクシオス(Axios)は先日の記事で、銀行のアナリストの以下のようなコメントを紹介した。「このままいけば最終的に、ポピュリストたちがシリコンバレーに集中する富を分配せよと、声を上げるだろう。技術資本と人的資本の格差がかつてなく広がっている」

アメリカの進歩主義者の多くは既に、IT「ビッグ5」に対する規制強化と独禁政策の強化を進めることで、富を再分配するよう求めてはじめている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルで金融を担当するデニス・バーマンは、ツイッターにこんなジョークを書き込んだ。

アマゾンが2025年に分割されるとしたらどうなるだろう。商取引、ウェブサービス、メディア、物流サービス、人工知能(AI)、ゲノム解析......分割しても独占か。

 

ちなみに筆者は、巨大企業がアメリカの民主主義と経済に脅威をもたらす、という見方には懐疑的だ。

(文:ジェームズ・ペソコウキス(米アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)、翻訳:河原里香)

「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

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