鉄道キセル対策、日本と欧州はこんなに違う 私服検査官が一斉検挙、罰金は運賃の数十倍

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一方、長距離列車では頻繁に車内検札が行われる。欧州で乗り越し精算をしようとすると、状況によっては無賃乗車と見なされ懲罰的に高いレートでの運賃が請求されるほか、処罰の対象となる場合もある。鉄道事業者は利用客に対して「怪しい行為をして罰金や高額な運賃を取られるよりも、事前に切符を買っておいたほうが有利」というメリットとデメリットを伝え、結果として不正乗車を減らす方法を取っている。

不正乗車の中で、筆者が最も「セコい」と感じるのは、大人による小児運賃での乗車だ。不正を働く者は「見つかるはずがない」と堂々としているが、自動改札機の先で見張っている私服検査官に見つかっては反則切符を切られている。

観光客として知らない街を移動中、人けのない地下通路で検査官らしき人物に声をかけられることもある。一応、身分証のようなものをチラつかせながら「切符を拝見」と声がかかるのだが、この人物がそもそも本物かどうかもわからない。仮に正しい切符を持っていたらその検査官を追い払うことができるだろうが、偽検査官に変な言いがかりをつけられると結構厄介な目に遭いそうだ。

同一人物による無賃乗車や不正乗車が何度も発覚すると、単純な罰金だけで済まず、警察に引き渡されることもある。筆者の最寄りの駅では「○月○日の一斉取り締まりで、違反者×人が発覚。罰金総額は△△ポンド」といったような大きなポスターが時々掲示されている。

罰則はどのくらい厳しいか

では、罰金はどの程度なのか。JRの場合、不正乗車が見つかった際の増運賃の額は「乗った区間の運賃+法令による上限である2倍(つまり本来の運賃の3倍以内)となっている。ところが、欧州各都市の罰金額を調べてみると、軒並み通常運賃の20〜30倍で、常習犯にはさらに大きな罰金を科すようだ。有効なチケットやICカードなどを持たずに乗車した場合、たとえばパリの市内交通では50ユーロ(約6200円)、ロンドンでは80ポンド(約1万1300円)の罰金となる。

ちなみにパリでは乗り越し精算の制度がない。切符は持っているものの、それが降車駅までカバーしていない場合は35ユーロ(約4300円)が徴収される。ただ、これらの金額は「初犯」か、それほど悪質でない場合であり、これ以上のペナルティが課されることもある。 現地事情をよく調べもせず、「日本で当たり前」なことを外国でやろうとすると思わぬ失敗につながる危険が潜んでいるわけだ。

ロンドン地下鉄の車内にはすべてのドアに「有効な乗車券を持たずに乗ると、罰金または刑事罰を受けることになる」と明示してある(筆者撮影)

今朝、ロンドン市内の最寄り駅から市内に向かう際も、目の前に堂々と切符を持たずに改札を抜けていくやからがいた。周りにも大勢の通勤客がいたが、誰もが見て見ぬふりをする。パリでは「無賃乗車客を税金で運んでいる」と揶揄されているが、どこの街でも同じような問題を抱えている。

鉄道運賃が毎年上昇している欧州の各国では、「ただ乗りがまかり通る不公平感」をどこかで是正しないと、いつか一般市民の怒りが爆発するような気がしてならない。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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