鉄道キセル対策、日本と欧州はこんなに違う 私服検査官が一斉検挙、罰金は運賃の数十倍

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一方で、欧州には改札機そのものがまったく存在しない国がある。たとえば、ドイツやオーストリア、スイスなどがそれに当たる。プラットホームへの入り口には、入場時間を刻印する小さなマシンがあるだけで、構内へは一見、自由に出入りできるように見える。これを旅行ガイドブックなどでは「信用改札方式」という言葉で説明している。

「信用改札方式」が用いられているウィーンの刻印機の例「(筆者撮影)

「改札機がなくて、駅員もいないのだから切符なんて買う必要はない」と考える外国人客は意外と多いようだ。実際に駅でしばらく様子を見ていると、切符を買う人はまばら、刻印機に切符を入れる人もほとんどいない。市民はみな、堂々と無賃乗車しているようにも見える。

トラム(路面電車)に乗り込むときは、切符のことなど誰もが無頓着なので、律儀な日本からの観光客とともに乗車するときは、システムの説明に窮することもしばしばだ。

誰もきっぷを買っていないように見えるのだが、実はほとんどの利用客は定期券を持っているため、いちいち刻印機など通さない。また、観光客でさえも、一日乗車券もしくは一日券と観光地入場料がバンドルされた「○○(たいていは都市名)カード」を持っていたりする。そんな事情を考えると、片道切符で乗り込む人は相対的に少ないというわけだ。

ちなみに、隔年(偶数年)秋にベルリンで開かれる世界最大級の鉄道展覧会・イノトランスでは、ベルリン全域の一日乗車券を兼ねた会場への入場証が来場者全員に発行される。つまり、会場への足として「みなさん公共交通機関を使いましょう」と運営側が促していることになる。

信用改札方式を知らないと思わぬトラブルを招く。切符を持っていたものの、刻印をしないで乗っていて検査官に見つかったというケースだ。この場合の解釈は「無札乗車と同じ」、つまり罰金の対象となる。たとえ観光客であってもお目こぼしはない。「事情がよくわからず、刻印をせずに乗っていたら、実際に罰金を支払わされた観光客は結構いる(ウィーンの日本人ガイド)」という。

取り締まりはどう実施される?

これまで述べたように、欧州の公共交通機関ではどこでもかなりの数の無賃乗車客がおり、事業者を悩ませている。たとえばパリ交通公団(RATP)では、地下鉄とバスにおける無賃乗車や不正乗車で、年間1億7000万ユーロ(約212億円)もの損害を受けているという。

無賃乗車客の取り締まりは、検札の一環というより、むしろ「犯人検挙」が目的で行われることが多い。制服を着た乗務員が切符のチェックを始めると、無賃乗車客が他の車両に逃げたり、駅で降りたりと「取り逃がし」につながるため、取り締まりの際は私服着用で、あたかも一般乗客のようなフリをしながら電車へと乗り込んでくる。複数の検査官が車両の両側から乗り込んでくるので逃げることはできない。

筆者がドイツで体験したケースでは、検査官がいったん、座席に座って一息ついてから、そのあといきなりチェックを始めた、ということがあった。タイミングも絶妙で、実際に無賃乗車客をその場で捕まえていたから驚きだ。ドイツは信用改札方式だから、切符などそもそも買う気がない不届き者が少なくない。チェックのたびに、たいてい数人は違反切符を切られており、高額な罰金を支払わされる。

ロンドン地下鉄はしっかりとした改札ゲートが付いているが、それでも無賃乗車客が結構いる。関係者へのインタビューによると「常習犯をCCTV(監視カメラ)で追いながら、ピンスポットで私服検査官がチェックに及ぶ」ということだ。

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