ベトナム最悪の海洋汚染、意外な「その後」

謝罪から1年、魚はまだ死んでいる

「ベトナム史上最悪の公害」を経験した中部海岸の村
著しい経済発展の裏側で、電力の需給が逼迫しているベトナム。電力不足解消の切り札として2009年より計画が進められていたのが、日本とロシアの支援によるベトナム初の原子力発電である。しかし、昨年末、その建設が突然中止となった。
ベトナムではこの年、「国内史上、最悪の公害」と呼ばれる海洋汚染が起きている。外資企業の工場廃水が引き起した甚大な環境被害に、各地で抗議運動も活発化した。原発計画の中止はこうした国民の間で高まる環境意識が影響したとする見方もある。日本が輸出するはずだった原発はなぜ白紙撤回されたのか。公害と原発の“震源地”の海辺から、あらためてその謎をひもとく。

打ち壊された漁師の村

まるで爆撃を受けたかのようだった。建物のほとんどは崩れ落ち、瓦礫(がれき)が散乱する。残った家もおよそ人が住めそうな様相はなく、廃墟のような集落だった。

フォルモサ社の隣で、移転を迫られながら暮らすドンイェン村の人々

ほぼ無傷のカトリックの教会があった。その周囲を歩くと、少なくない数の人たちと行き交う。みな静かに手を前に組んで会釈をし、見知らぬ訪問者にも多くが「シン・チャオ(こんにちは)」と丁寧な言葉をかける。こんなベトナム人の風景はあまりお目にかからない。ここは住む人すべてが敬虔なキリスト教徒の村だという。ただし、その穏やか雰囲気とは裏腹に、家々が打ち壊されている理由を村人たちに尋ねた途端、彼らの発する言葉は辛辣で止まることがなかった。

「戦争よりひどい。まだ人が住んでいるのに、警官たちが重機で家を壊しました。共産党の野郎がここを強奪して、中国に売っ払ったのです」

ベトナム中北部のハティン省。美しい海岸に面し、ほとんどが漁師の仕事で暮らすドンイェン村は、いま消滅の間際にある。住む土地が国に接収され、強制的な立ち退き計画が進んでいるからだ。

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